あるホテルの一室・・・暗い部屋のなかで、身長の高い二人の男が向かい合っていました。

「・・・あぁ、あなたが愛してくれるのなら、私はなにも望まない。」

月明かりに照らされ、青年の色素の薄い髪がまるで小麦畑のように揺れる。

「・・・なぜ、なぜ戻ってきたのだ!あなたは・・・ロミオではない!と言うのに・・・」

まるで、映画の中のワンシーンのような幻想的なやりとりに、周りは皆息をのむのでした。
二人の視線が交わり、涙に揺れる。

「そうです・・・私はロミオにはなれません。しかし、あなたへの思いはかわらない。」

「それならばまだ、間に合います!早く・・・」
男の言葉は、風によりなくなってしまいました。そして・・・相手はつぶやいてしまったのです。
「私は・・・いや、俺はロメオではなくロミオになる!」

彼の叫び声の後には、なにやらいたたまれない沈黙が残りました。
時間が止まったかのようなわずかな・・・しかし、長い時間を彼らは息を止めていました。

「「・・・藍音さん!なんですかこれ!」」

わざわざ、太陽君がワールドカップを見に東京へと向かったさいに藍音さんは二人に当てて「台本」をプレゼントしたのでした。

「律儀になってやってる二人が可愛いよぉ!可愛いよぉ!」

ほわほわしながら、彼女はこの瞬間を永久保存するためにビデオを回していました。

「・・・・最近、このパターンばっかっすね。」
「あぁ・・・まさか・・・七海よりたちが悪いとは思わなかったさ。」

二人があきれたように、見つめ合ったまま、ため息をつきあっている姿さえ藍音さんからしたら「可愛いよぉ」なんだそうです。

「さ、さ、つづきやろーよ、ね?ね?」

いくら可愛くお願いをされたとしても・・・二人はこれ以上「ロミオ」にも「ロメオ」にもなれなかったのでした。

「せめて、藍音さんがジュリエットをしたらいいんじゃ・・・」

「やだ!」

二人の提案は残念ながらコンマ二秒で、断られたのでした。

「二人がやるのを見るのが楽しいんだよ、だよ?ハヤク・・・ツヅキヲシテ?」

妖しい光を帯びた藍音さんの目を見ながら、二人は命の危機を感じたそうです。
言葉はなく、うなずく二人・・・。

「逃げろ!」
「逃げるっす!」

あうんの呼吸で走り出した二人の後ろでは、まだ藍音さんがほわほわしながら「はぅ~ついに、かなわない愛からの逃避行だよ!」と叫んでいたとかいないとか。
近年では涼風の中の暗黙のルールにより「藍音さん最強説」が有力だそうです。