往人さんとまともに会話をすることができる人がただ一人だけいました。彼は自らを「みちゃえる」と名乗り、往人さんの力になることだけをしていました。

「ちょっと、みちゃえるー、いる?」

ペットボトルを片手に亜水弥ちゃんがバタバタと往人さんの部屋へとはいってきました。いつもなら亜水弥ちゃんがここに近寄ることすらないのですが、みちゃえるさんがいるとなると話は変わるのでした。

「あ、亜水弥さん。どうかなさいましたか?」

往人さんが部屋にいないことを確認した後に亜水弥ちゃんは、ふーっと息をついたあとにみちゃえるさんのところへと向かいました。

「あのさー、私声優になりたいんだよね。」

「それは素敵な夢ですね!」

「へへ、ありがと。そんでさぁ、なにか勉強になるゲームないかなぁって思ったの。」

ちなみに往人さんなら二つ目のセリフのあたりで「・・・おばさんは・・・自重しろ。」
などと言ってアッパーをくらっていたことでしょう。

「そうですね・・・・亜水弥さんなら、ちょっとツンデレなのがいいかもしれないですね。」

「ツンデレ・・・かぁ。イマイチ・・・イメージわかないんだよねー。ね、なんか貸してくれない?」

ちなみにまたもや往人さんだったなら「・・・おまえなんか・・・ただのツンだ!」と二回目のアッパーをくらっていたあたりです。

「はい、では有名なのをいくつか、探しておきます。」

その一言に亜水弥ちゃんは満足そうに笑いました。

「ありがと。あっと、これあいつには言わないでね。」

「・・・勿論です。」

「じゃ、よろしく!」

釘をさして安心したのか、亜水弥ちゃんはちょっと手を振ると部屋を出ていきました。パタンと扉が閉まるとみちゃえるさんはゆっくりと振り返りました。

「・・・往人さん・・・出てこなくてよかったんですか?」

等身大のマネキンがいきなり動き始めて、その後ろから往人さんがでてきました。今はその物体の「試着」をしていたとのことでした。

「かまわない・・・これだけいれてくれ。」

往人さんは一つのソフトをとりだし、みちゃえるさんに渡すとまた「試着」をしにもどっていきました。ソフトを確認した後にみちゃえるさんは往人さんに問いかけました。

「・・・これ別にツンデレじゃないですよね?」
それは、最近アニメ化などをしてしまい問題になったちょっとグロいゲームソフトでした。ちなみに亜水弥ちゃんが嫌いなタイプのゲームです。

「・・・名作だ。」

いろんな意味での名作であるのは確かでしたが、あまり女の子がやるものではなかったような気がします。

「・・・名前かいてありますよ?」

なぜか裏に「YUKITO」と書かれていたのでした。

「・・・かまわない・・・布教用だ。」

「・・・しりませんからね。」

「・・・本望だ。」

みちゃえるさんはため息をつきながらツンデレのゲームと一緒にそのゲームを亜水弥ちゃんに渡すことになったのでした。
「わ、ありがとー・・・みちゃえるさん・・・これはわっていい?」

タイトルを見て、パッケージを見た後に亜水弥ちゃんは「YUKITO」の書かれたゲームのみを笑顔で窓の外へと投げようとしていました。

「布教用なんで・・・大丈夫だと思います。」

みちゃえるさんは静かにお祈りをしました。

「往人のどあほー!」

その言葉とともに宙に舞っていったゲームは、あとでフリスビードッグのように往人さんがキャッチしたとか、しないとか。とにかく、亜水弥ちゃんの練習になったのだけは確かなのでした。