出すことのなかった手紙。出されることのなかった手紙。
戻ってきてしまった手紙。ずーっと持ったままだった手紙・・・。それは人それぞれで、手紙の数だけ大切な思いがあった。

「・・・咲也はいいよな。」

つぶやかれたことがあった。あれはいつのことだったんだろうか?確か、バレンタインが近かったような気がする。
とにかく、信也に言われた。

「なにがだよ?」

鞄を開けて、教科書をとりだしてみた。中には明らかに可愛らしい便せんが何枚か無造作にはいっていた。信也の視線がそこに注がれていることに少しして、気がついた。
・・・珍しい。

あんまり色恋沙汰には興味や関心を示したことがなかった信也が、手紙・・・いわゆるラブレターを見ていた。

「ふーん・・・好きな子でもできたのか?お兄ちゃんに話してみなさい。」

楽しいなと思った。
いつもはクールな奴だけど、こうやってからかうことができるときは本当にこいつは可愛い。自分とは正直反対だけど・・・その不器用さが可愛いのだ。

「・・・わからない。」
おっ?「興味がない」ではなくて「わからない」と言った。これは、なにかあると思った。いつもならこいつは関係ないものに対してはバッサリと切り捨てるからだ。

「・・・ラブレターでももらったのか?」

表情に少し、赤みがかったのを見逃さなかった。確実に彼に、なにかがあったんだと直感的にわかった。これは兄として手伝ってやらないといけない。きっとこいつにまかせたらなにもすすまなくなると息をのんだ。

「見せてみろよ?」

押しにかける弟のことだから、今時ラブレターなんて古風なアプローチのしかたをしてくる子なんて、もしかしたらあうかもしれない。ワクワクしながら、信也の手の動きを見ていた。
控えめに・・・水色の封筒が出てきた。なんだか嬉しくなった。
弟がモテるというのもいいものだ。そのままそっと・・・そっと手紙を渡された。

「・・・見ていいのか?」

なんとなく人に当てられたラブレターを読むのはいたたまれなかったけど、本人が言うのだからと開いてみた。
きれいな字。
赤のインクがはえている。
小さな文字。

ーこの手紙を見た人は3時間以内に他の人に見せないと、地味にはげていきます。ー

「・・・不幸の手紙かよ!?」

思いっきり・・・肩を落とした。
今時まさかの不幸の手紙。さらには「はげる」なんて微妙な内容。

「・・・助かった・・・。」

どうやら、はげるのがイヤだったらしい。他人に見せたから平気だと思ったみたいだった。

「・・・信じんなよ。」
変なところが純粋だった。

「・・・はげ・・・」

・・・そういわれるとなんだか信じてはいないのだが、怖くなってくるから不思議だった。

「・・・暁羅に・・・送っとくか。」

あいつなら、きっとはげてもいいだろう。そう思ったから手紙を書き写して、机の上に放置した。



「・・・はげてへんよな?まだ大丈夫・・・」

鏡の前で、髪の毛をずーっといじっている暁羅の姿を見たのは、そんな手紙のことなんてすっかり忘れ去っていたそれから数日後のことだった。

「だんちょーははげー」
その後に、無邪気に七海ちゃんと千麻ちゃんが叫んでいたのはそれからさらにまた数日後のことだった。

・・・不幸の手紙はやめましょう。