~晴一君の日~
ずっと越えられなかった彼の背中を私たちはいつでも追い続けていたのは分かっていた。それが、まさかこんなことになるなんて・・・。
「あれ?誰かがいる?」
買い物袋を下げながら七海ちゃんはアパートの前でなにかをじーっと見ている人を見かけました。なんとなく気になる。
でも、人違いかもしれない。七海ちゃんは考えた結果としてあえて声をかけなかったのでした。
「ただいまです!・・・ってあれ亜水弥さんどーしたの?」
確かしばらくは東京で仕事があるんだと張り切ってでていったはずの亜水弥さんがなぜか久しぶりに三つ編みにして、なにかの準備をしていました。
「あ、七海。ちょうどよかった!準備手伝ってー。」
七海ちゃんがなにかを聞こうとしたのに、それはまったく遮られてしまいあれよあれよと言う間に七海ちゃんの手にはたくさんのあめ玉がはいったかごが渡されていました。
「あ、亜水弥さん?これは?」
「いいから、いいから、手伝って!」
そのまま引きずられるようにして七海ちゃんは玄関からでることになりました。ふと気がつくと目の前には先ほどのアパートを見つめていた女の人がいました。
黒髪をぼぶに切った可愛らしい女の人には見覚えがありました。
「もしかして、ゆずさん・・・ですか?」
「はい。お久しぶりですね、七海ちゃん。」
笑った顔はいつかのままでした。
そこにいたのは、晴一兄さんの妹さんのゆずちゃんだったのでした。落ち着いた雰囲気に、結婚したこともあってかすごく大人っぽくなっていました。
「よし、じゃぁ行こうか。」
「・・・そうですね。」
やっと七海ちゃんにも事態を理解することができました。この二人がいるということはきっと今日が今年の「晴一兄さんの日」だったのです。三人で昔晴一兄さんが入院をしていた病院へと向かいました。
看護師さんたちもだいぶ入れ替わったために、晴一兄さんのことは少しずつ忘れられていて少し寂しさを感じました。それでも、私たちが病院に入るとみんなが笑いかけてくれました。
「それじゃあ、みんなに魔法をあげるね!」
亜水弥さんの声を合図に私とゆずちゃんはたくさんのアメのはいったカゴを傾けました。
色とりどりの小さなアメたちが空にまいます。
その時には、重い病気の子も、末期のガンの方も・・・みんな目を輝かせていました。
もともとは晴一兄さんが子どもたちを笑顔にするためにと、体の調子がよいときに行ってきた小さな魔法だったのですが、私たちはそれを引き継ぎました。
みんなに晴一兄さんを忘れて欲しくなかったから。
それから毎年、亜水弥さんとゆずさんがせっせと準備をして、時期を見計らってこうやって小さな魔法を使うのでした。
「・・・ん。」
ふいに小さな女の子が私たちの前にきて、堅くつむんだ手をさしだしてきました。亜水弥さんは不思議そうにしながらその子の手に自分の手を重ねました。
「これ!?」
私たちは思わず顔を見合わせました。その子の手の中には小さなビンがあり、中には星の砂がはいっていました。
それは晴一兄さんの宝物で・・・確かにお墓に入れたはずだったのになんでこんな所に?
女の子が振り返り私たちもそれを目で追うとそこには・・・。
「せ・・・いち?」
「おにい・・・ちゃ?」「晴一兄さ・・・ん?」
そこには彼が確かに小さなアメの包みを持ちながらいつかのように笑っていました。
そして風とともに消えてしまいました。
「見えた?」
「うん。」「はい。」
私たちはあまりの奇跡に息をすることすら忘れていました。
いつまでもやっぱり晴一兄さんは晴一兄さんで・・・。
「心配性だね。」
私の独り言に二人は無言で頷きました。
あれは私たちの生み出した調子のいい妄想だったのかもしれません。
それでも、彼はまだまだ確かに私たちと一緒にいることに気がつけた幸せな瞬間でした。
ずっと越えられなかった彼の背中を私たちはいつでも追い続けていたのは分かっていた。それが、まさかこんなことになるなんて・・・。
「あれ?誰かがいる?」
買い物袋を下げながら七海ちゃんはアパートの前でなにかをじーっと見ている人を見かけました。なんとなく気になる。
でも、人違いかもしれない。七海ちゃんは考えた結果としてあえて声をかけなかったのでした。
「ただいまです!・・・ってあれ亜水弥さんどーしたの?」
確かしばらくは東京で仕事があるんだと張り切ってでていったはずの亜水弥さんがなぜか久しぶりに三つ編みにして、なにかの準備をしていました。
「あ、七海。ちょうどよかった!準備手伝ってー。」
七海ちゃんがなにかを聞こうとしたのに、それはまったく遮られてしまいあれよあれよと言う間に七海ちゃんの手にはたくさんのあめ玉がはいったかごが渡されていました。
「あ、亜水弥さん?これは?」
「いいから、いいから、手伝って!」
そのまま引きずられるようにして七海ちゃんは玄関からでることになりました。ふと気がつくと目の前には先ほどのアパートを見つめていた女の人がいました。
黒髪をぼぶに切った可愛らしい女の人には見覚えがありました。
「もしかして、ゆずさん・・・ですか?」
「はい。お久しぶりですね、七海ちゃん。」
笑った顔はいつかのままでした。
そこにいたのは、晴一兄さんの妹さんのゆずちゃんだったのでした。落ち着いた雰囲気に、結婚したこともあってかすごく大人っぽくなっていました。
「よし、じゃぁ行こうか。」
「・・・そうですね。」
やっと七海ちゃんにも事態を理解することができました。この二人がいるということはきっと今日が今年の「晴一兄さんの日」だったのです。三人で昔晴一兄さんが入院をしていた病院へと向かいました。
看護師さんたちもだいぶ入れ替わったために、晴一兄さんのことは少しずつ忘れられていて少し寂しさを感じました。それでも、私たちが病院に入るとみんなが笑いかけてくれました。
「それじゃあ、みんなに魔法をあげるね!」
亜水弥さんの声を合図に私とゆずちゃんはたくさんのアメのはいったカゴを傾けました。
色とりどりの小さなアメたちが空にまいます。
その時には、重い病気の子も、末期のガンの方も・・・みんな目を輝かせていました。
もともとは晴一兄さんが子どもたちを笑顔にするためにと、体の調子がよいときに行ってきた小さな魔法だったのですが、私たちはそれを引き継ぎました。
みんなに晴一兄さんを忘れて欲しくなかったから。
それから毎年、亜水弥さんとゆずさんがせっせと準備をして、時期を見計らってこうやって小さな魔法を使うのでした。
「・・・ん。」
ふいに小さな女の子が私たちの前にきて、堅くつむんだ手をさしだしてきました。亜水弥さんは不思議そうにしながらその子の手に自分の手を重ねました。
「これ!?」
私たちは思わず顔を見合わせました。その子の手の中には小さなビンがあり、中には星の砂がはいっていました。
それは晴一兄さんの宝物で・・・確かにお墓に入れたはずだったのになんでこんな所に?
女の子が振り返り私たちもそれを目で追うとそこには・・・。
「せ・・・いち?」
「おにい・・・ちゃ?」「晴一兄さ・・・ん?」
そこには彼が確かに小さなアメの包みを持ちながらいつかのように笑っていました。
そして風とともに消えてしまいました。
「見えた?」
「うん。」「はい。」
私たちはあまりの奇跡に息をすることすら忘れていました。
いつまでもやっぱり晴一兄さんは晴一兄さんで・・・。
「心配性だね。」
私の独り言に二人は無言で頷きました。
あれは私たちの生み出した調子のいい妄想だったのかもしれません。
それでも、彼はまだまだ確かに私たちと一緒にいることに気がつけた幸せな瞬間でした。
