「はい、咲也お兄ちゃんですね。」

月日のたつのは本当に早いものだった。何回も無邪気に確認するようにつぶやいた少女の声はずいぶんと変わってしまった。

「咲也兄さーん・・・これはどーいう?」

お兄ちゃんなんてよんでくれていたのは本当に少しの期間だった。なぜか気がついた頃には「咲也お兄ちゃん」ではなく「咲也兄さん」になっていたのだから。
いや、まだ「兄」がついているだけ良いのだ。
珱稚なんて医者になったにも関わらず「研修医」と呼ばれ続けた。
往人にいたっては自分だって医者だから「先生」とか「お兄ちゃん」なんて呼んでもらえると期待していたのに、永遠に「往人さん」のままだった。せめて「先輩」・・・せめて「兄貴」と呼ばれたいと泣いていた。
これでも「おまえ」って呼ぼうとしていたのを止めてやったのだから感謝してほしい。

「聞いてますか?これはどーいうことですか?」
強制的に往人への言葉は遮られた。そして、俺は再度机の上に載せられている書類に視線をうつさなくてはならなかった。
その書類には「教育方針ーNanami」と書かれている。ちなみに厚さは某大作RPGの攻略本よりも厚い。

「なぜ、私の名前が書いてあるんですか?」

「・・・七海なんて可愛いからよくある名前だよ。」

あ、ダメだ。俺もこの対応はダメだと思ったさ。
「へー・・・この七海さんも私と同じ誕生日なんだぁ。・・・あ、血液型も年齢も同じだー。」

ぺらぺらとページがめくられていく度に心臓がきりきりと痛かった。もはや息ができないくらいまで・・・。

「ドッペルゲンガーだな?あわないように気をつけろよ。」

・・・無理だって。
あり得ないよな。だってその子はおそらく君と全く・・・全てにおいて同じなんだから。
だってそれは君でしかないから。

「・・・誰の胸の成長が絶望なんですか?」

「・・・七海ちゃんの・・・。」

「・・・ここには、妹としてのキャラクターのすりこみに、問題ありと。」

「・・・(-_-;)」

逃げ道がない。例えば七海ちゃんの笑顔がそれはそれは作られたもののようだったから・・・冷や汗が流れ落ちてきた。

「・・・失敗作。」

「誰だよ!?七海は失敗作じゃないだろ!!」

瞬間的に空気が止まった。確かに失敗作と書かれていた。おのれ・・・往人だな。あいつ自分が七海に嫌われているからって・・・。

「・・・やっぱり・・・私だったんじゃないですか。」

「あ・・・。」

「ゆっくり、今後の教育方針について話し合いましょう。」

逃げ場はなかった。

「・・・七海と将来について話し合えるなんて幸せだなぁ・・・あはははは。」

「そうですね。」

目が怖い。
口調が怖い。
なにより、最近うちの妹は確実に強くなりました。
というよりも・・・・最近うちの妹最強伝説です。きっといつかは、こいつが涼風を担うのではないかと、たまに未来が怖くなります。
・・・とほほ。