なんだかんだで、珱稚先生が帰ってきたおかげでまた三人としての生活が始まりました。ただし咲也君のかわりに珱稚先生が入るという特殊なパターンです。
しかし、めちゃくちゃに文系しかできない二人からみたら医学部をストレート合格した珱稚先生はかなり頼もしい存在でした。

「…おー、珱稚先生さすが数字に強いね!」

横に計算用紙をおきながら、エクセルに入力。パソコンを使いこなす速度も咲也君とそんなに変わりありません。これはなかなかな戦力になりそうです。

「相変わらず、おまえらは数字に弱いな。」

帰ってきたばかりの時にはみんななんとなくギクシャクしていましたが最近は珱稚先生も自然に笑うようになってきたのでなんだか安心できました。
昔に戻ることは無理でも、未来はまだまだこれから作り上げていくことができるのだから。

「はーぃ、数学で2点取った私は健在ですよ!」

とりあえず捨てるに捨てられなかったテストを取り出して見せました。

「あはは、それまだあったのか?」

なんとなく…珱稚先生が笑ってくれたら嬉しいから準備しておいたというのが正しかったのです。
「お、ちなみに俺の三点もあるぜ!」

示し合わせたように、三点のテストをとりたず黒崎さんに、珱稚先生はまいったなぁ…ってなってまた苦笑いをするのでした。

「2人は、本当に理系嫌いだったもんな。」

正確には二人とも難しい理論を並べるのは大好きなんですが、それを使って計算をするのが大嫌いなのでした。

「珱稚先生や咲也兄さんがいたら必要ないもん。」

「本当だよ。俺らにはもっと違う道がある…はずなんだ。」

早い話、面倒な数学や計算はできる人に任せちゃえばよくないかな??理論です。

「…七海、統計学あるだろ?」

「ギクッ!!」

「なにも口でばらさなくても…。」

まさか統計学の基礎を一年で見事に落として、救済で単位をもらったとはいえない…さらにこれから心理学統計学が二つもあるなんて…なおさらいえない。

「SPSS?」

聞きたくもなかった単語が飛び出してきた。統計処理ソフト・・・これが使えなきゃ意味がない。
「ですな…。」

やりたくない…Excelで十分だよ。なんて言い訳…通用しない。

ぽすっ。

「え?」

顔を上げると珱稚先生が頭に手を置いてくれていた。懐かしい感覚にちょっと涙が溢れてきた。

頭をなでられる。

それは数年前なら気にすることもなかったくらいにふつうの出来事だった。

「教えてあげるから、頑張ろうな。」

微笑んだ珱稚先生の顔は…変わっていなかった。優しい…優しすぎる珱稚先生の顔に心が揺れた。
「…うん!」

やっとまた、歩き出せる。小さな心配はなくなってすべてが確信に変わった。

「…珱稚、俺にも教えて…」

Excelすら使えない弁護士が泣きついた。

「スパルタでいくぞ?」
笑ってる。
珱稚先生が笑ってる。
黒崎さんも笑ってる。
私も笑ってる。
きっと咲也兄も笑ってる。

「「了解!」」

遠回りした日々は、これから埋めていけばいいんだ。まだまだ私たちは強くなれる。

可能性は無限大。