だらしなく服もちゃんとかけることすらしないでベッドに寝ころびながらぐでぐでと声を弾ませる七海ちゃん。

「今日心理学の授業で先生がツンデレっていったらわかってなくて首傾げてた子がいたのー。」

なにやら今日の出来事をわざわざ小学生が親に話すようにわざわざ電話までかけて咲也君に語り始めた七海ちゃん。しかも内容はとくに語るべきことでも何でもないのだが、なぜか聞いてしまう親バカ咲也君。

「・・・・そーいえば、似たような話があったな。」


それなまだ、萌えと言う言葉が世間に認知されて間もない頃のお話でした。

「ななたん萌え!」
「ななたんテラ萌え!」
よくわからないが、小さいときの七海ちゃんにはそれなりの需要があったらしく劇があったりすると大きなお友達からの声援が大きかった。

「あ、あの・・・ありがとうございます!」

まだ「知識」のなかった七海ちゃんはよくわからないがその声を無視することすらできなかったがために振り返ってわざわざ頭を下げて顔面から転ぶことがあった。
しかしそれがさらに声援を生んだ。

「ななたーん、神だ!」「萌える!妹萌え!」

みんなが控え室で反省会をしているときに七海ちゃんはおずおずと手を挙げて小さな声で聞いたのでした。

「あ、あの・・・萌えってなんですか?」

説明ができずに固まる他のメンバーたち。咲也君がいつものごとくなんとかうまくごまかそうとしたときでした。

「萌え・・・それは・・・可愛いの最上級系だ!英語の・・・bestと同じだ!」

張り切って立ち上がった上に拳を握りしめながらあつく語り出した往人さんにみなが目を伏せました。

ーこいつ・・・言い切りやがったよ。ー

「え、それは・・・その、あの・・・私も可愛いってこと・・・ですか?」

恥ずかしそうに髪の毛を指に絡めたりスカートのすそを引っ張りながら口を開く七海ちゃんの姿に・・・そこにいた他のメンバーたちは思ったのでした。

ーこ・・・これは萌えるかもしれない!ー



「・・・それが・・・今じゃこんな・・・」

電話越しにも伝わってくる重たいオーラに咲也君は気がついていなかったのでした。

「・・・今が・・・なんですか・・・兄さん?」
「あ、やあはははは・・・今も可愛いよ?」

「ドウシテギモンケイナノカナァ・・・ニイサァン。ドーシテェ?」

それからなにがあったかは知りませんが、確かに彼の伝言メモには入りきれないくらいの「ごめんなさい」が吹き込まれていたとか、いなかったとか・・・。

・・・ななたんにまだ萌えられますか?