~犠牲者~
人にはそれぞれ好きなものがありますよね。それをちゃんとセーブできるかはその人次第です。煩悩とはそれだけを悪いとは非難もできません。それは・・・ある意味ではとても真摯な思いなんですから・・。
犠牲になるのはいつだってまったく関係のない人なのです。

「・・・最近、視線を感じるんだよ。」

咲也君は太陽君を前にして、いつになく辛そうな表情をしながら重いため息をつきました。

「視線っすか??咲也が犯人がわからないなんて珍しいっすね。」

誰かに見られているなんてことは彼にとっては珍しいことなんかじゃないので、本来ならすでに犯人に仕返しをしていてもおかしくはないのです。それなのに・・・今回は彼が辛そうに言葉を紡いでいるのです。
これは大問題です。

「犯人は・・・わかってるんだよ。わかってるから・・わかりたくなかった。」

難解な日本語を口にしたまま彼は机に顔を伏せたのでした。太陽君は不思議そうにその様子を見ながら「犯人」について考えていました。

ーカシャ

「・・シャッター音?」

小さく聞こえてきた機械の音に彼はあたりを見渡しました。なにかが違和感です。
しかし、その正体にはすぐに気がつきました。

「・・・なにやってんすか?」

その物体は体をふるわせた後に、なにを考えたのか「にゃー」となきました。

「七海、無駄っすよ。いくらなんでもここに猫さんはいないっすから。」

諦めたように女の子がカメラを片手にでてきました。

「・・偶然ですねーー。」

人のアパートの押入からでてきたくせになにが偶然なのかを聞いてみたいと思った。そして、太陽君はわかってしまたのでした。咲也君をここまで苦しめた犯人が誰なのかを・・。

「七海、その写真でなにをもらう気なんすか。」

「ナンノコトデスカ、ナナは知らないよ。」

明らかに怪しいのです。
太陽君が優しく、しかし逃げられないように問いつめていきます。

「・・カメラの中、見てもいいっすか?」

「ダメ!!」

「うん、なら正直に白状するっす。」

誘導尋問にもはや逃げられないと気がついた七海ちゃんはおずおずと・・・声にしました。

「・・・コンサート・・のチケット・・」

それは七海ちゃんの大好きな某アイドルグループのコンサートのチケットでした。非常に倍率が高くなかなかとれないのです。そういえば先日ダメだったと泣いていました。
きっとどうしても見に行きたかったから連絡をしたのでしょう。
咲也君が恐れているその事務所の社長に・・・。

「兄さんの写真・・20枚でくれるって・・。」

嬉しそうに笑っている七海ちゃんを見て、きっと咲也君は「我慢」をしてやろうとしたのだと言うことに太陽君は気がつきました。そして机に倒れたままの咲也君が泣いていることに・・。

「お兄ちゃんにちゃんと感謝するんすよ。」


「うん!!」

どうか・・・どうかみなさんは誰かの笑顔の陰には、必ず泣いている人がいることを忘れないでください。それだけが、私たちからのお願いです。