～青木さん～

その日、彼女は焦っていました。もしかしたらこれは他人の話ではないかもしれない。
そんなことないよね？？それでも、なぜかざわめきが止まらなかった。
・・・だってあの人は優しすぎるから。
もしかしたら・・・もしかしたら・・・ありえちゃうんじゃ。
駆け足で家に帰った。確か今日は彼は家にいるはずだ。

「太陽兄さん！！」

おはようよりも先にその言葉が口から飛び出した。予想外に廊下に反響した声がまた耳に帰ってきた。
・・・返事はない。

「太陽兄さん！！太陽兄さーん！！」

無駄に連呼してみた。
それなのに、なんにも帰ってこない。不安に借られてしまう。大丈夫だよね？？・・・大丈夫。
なんとか深呼吸をして、部屋へと向かった。
机の上のには「ランニングに行ってきます」の文字。いつもなら、気になんかしないのに今日は「ランニング」がなぜか・・・なぜか心配だった。

「ただいまっすー。・・・七海？どうしたんすか。」

いつものように犬のように愛らしい笑顔。
こんな笑顔をされたら・・・みんな・・・勘違いしてしまうかもしれない。心配が輪をかけて広がっていった。
太陽君はじーっと自分を見ている七海ちゃんを前に首を傾げた。

「七海・・・なんかあったんすか？」

「ダメだよ！・・・兄さん目を覚まして！」

意味深な発言。
なにから目を覚ましたらいいのかさっぱりわからなかった。
・・・ちょっと間をおいてみたけどやっぱりわからなかった。

「？なにから目を覚ますんすか。」

・・・絶対言葉が足りていない。でも、七海ちゃんは真剣そのものの顔をしながら、太陽君を見つめていた。
そして口にしたのです。
「デート商法にひっかかっちゃだめー！」

「・・・はい？」

・・・意味が分からなかった。なんだかまたこの子が暴走をしていることだけはしっかりとわかってしまった。それからも彼女は必死に何かを主張していた。

やれ太陽兄さんは人が良いから心配だ。
泣かれてもだまされちゃいけない。
なにかあったらちゃんと相談してほしい！

「・・・なんなんすか？」

一方的にはなした後に七海ちゃんはご飯を作らなきゃーと台所へと去っていってしまった。
しかし太陽君は置いてきぼりな気分のまま立ちすくんでいた。

「・・・ん？これってなんすか。」

家庭科と書かれたプリントが散らばっていた。
・・・そこにはなぜか「青木さん」の文字が赤字で書かれていた。
なんで俺の名字が・・・。太陽君は首を傾げながらプリントをめくっていきました。
そして理解したのでした・・・

「七海・・・これはまったくの別人すよ・・・」
なんでも家庭科で見せられたビデオで「青木さん」と言う人がデート商法にひっかかって大変なことになったらしい。
端っこに友だちの千麻ちゃんとのやりとりが書かれていた。
おそらく、二人でこっそりと笑っていたのだろうと言うことが予想できた。

「・・・千麻ちゃんにも言わないとっすかね。」
太陽君は、肩を落としながらため息をついた。
そしていつの時代も女の子は怖いなと頭を抱えたのでした。


今はもう元気にしているかを考えるしかない千麻ちゃんが実は裏から涼風を支配していた時代のお話でした。