それは・・・なんてことのない一言から始まりました。そして、それはある意味・・・忘れていた方が幸せだったとみんなが思いました。

「そう言えば最近、運動会してないねー?」

まだ、暁羅さんが団長をしていた頃にはイベントが大好きな彼は周りを無理矢理巻き込んで、自分の誕生会や運動会をやったものでした。それなりの景品がでるためみんな必死になってやるのですが・・・世の中はそんなに甘くありません。
そうとうな無理難題が出されて、まず達成はできません。

「そーいや、俺からはやってないな。」

咲也君は団長になってから正直面倒だったのでほとんどのイベントを廃止していました。別にイベントは嫌いではないのですが、時間がなかったんです。

「じゃあ、やろうぜ!」

黒崎さんがキラキラした瞳で立ち上がりました。忘れていたのです・・・黒崎さんが暁羅さんなみにトラブルメーカーだったと言うことを・・・。
「えーっと・・・借り物競走にするか!」

黒崎はあっけらかんと言いましたが、他の人たちは完璧にフリーズしていました。まさか、またあのほとんど「罰ゲーム」に近い恐怖のイベントが開催されるなんて・・・。できたらやりたくない・・・それが正直な本心でした。

「内容はどーする?」

楽しそうな黒崎さんの姿を見たら誰も止められません。みんな悲痛な面もちで、黒崎さんを見たあと静かに誰かが答えを返すのを待っていました。
「あ、確か箱から紙を取り出してやるんだよな!箱どこだっけ?」

ぎくっ・・・まさかあの箱の封印を解く日がくるなんて。

「・・・物置の奥底だよ~出すの大変だからあきらめよーよ!」

箱を管理していた七海ちゃんが仕方なく答えました。本当なら燃やしてしまうつもりだったのですが、さすがにそれはできなくてかなり深い闇へと置いてきたのでした。

「あー、確かにあれはとり出すの大変っすよ!」
太陽君が助け船を出します。一人じゃ押せなくてもみんなで押せばあきらめるはず・・・みんなが頷きました。

「あれは無理ですよ~。」

「そうですね・・・私も賛成いたしかねます。」
「・・・却下。」

みんなの声を聞いて、黒崎さんは少し考えたあとにまるで太陽のような笑顔を浮かべて、大きな声で言いました。

「ちょーどいいから作り直そう!咲也が遠くに行くんだから今回は思いっきり全国規模でやろーぜ!」

再び・・・フリーズしていました。今回は実は自分は安全だと思っていた咲也君まで止まっていました。

「古いものも大切だけど、固執し続けるのはよくないよな。俺たちは新しい風をいれないと!」

わー・・・ナイスなセリフ。おそらく、黒崎さんが話してきたたくさんの言葉の中でもきっと一番くらいのきれいにかっこよくまとまった言葉でした。しかし・・・みんな感動よりも不安で泣きそうでした。

「どーするかな?ここは暁羅さんに作ってもらうか!」

やーめーてー。
しかしそんな声は届くはずもなく。

「電話するか。」

やーめーてー。
しかし誰も逆らえない。
「あ、暁羅さん?黒崎です・・・はい、実は・・・借り物競走がやりたくて・・・」

やーめーてー。
電話口でよっぽど嬉しかったらしく暁羅さんは大きな声で話していたためみんなに内容は伝わっていました。

「よし、みんな暁羅さん喜んでたぞ!はりきって借りてくるもの決めるってさ。」

うん・・・聞こえてたよ。暁羅さん・・・楽しそうだったね。きっとすっごーくはりきって作ってくれるね。

「開催日は追って連絡する!!みんな準備しとけよ!」

みんな、それぞれの運命を、認めるしかありませんでした。
涼風はそうとうのことがないかぎり「団長には逆らえません」。

「「・・・りょーかーぃ・・・。」」

楽しそうなのは・・・きっと黒崎さんと暁羅さんだけ。

さぁ、また運動会が始まります。参加希望者は大募集!ただし、様々な保証はできませんからあしからず。
それでも・・・あなたはやりますか??