「んでは、珱稚の帰宅を祝ってかんぱいやー!」
暁羅さんは隣にいた咲也君の肩をバンバンとたたいた。「万博」でのカメラマンとしての仕事を断ってわざわざ日本に残ったそうだ。

「はぁ・・・相変わらず、テンションが高いな。」

呆れたように冷たい言葉を発しながら咲也君もなんだかんだで嬉しそうに表情をゆるめていた。彼だって大学院での研究を有り得ないスピードでこなして帰ってきた。

「まぁまぁ、久々なんだからいいじゃん。」

豪快に笑う亜水弥さんも大手のオーディションを棄権してきたという。

「はぅ~!珱稚さんだよー。」

藍音さん。

「・・・痩せました。」
渚さん。

「でも、元気そうっす!」

太陽。

「んー・・・これからは研修医って呼んだらマズいのか?」

信也。

それから・・・
「はーぃ!珱稚せんせーのためにたくさん作ったよん!」

満面の笑みを浮かべる七海。

他の人たちもみな、個人の予定なんて破棄した。
「彼ら」はもう「子ども」ではない。
・・・心も体も。

それは当時最年少だった七海が成人したことからも明らかだった。

「彼ら」の大部分はもうここ以外にも「自分の居場所」を見つけた。

それは仕事であったり、大学であったり・・・なかには結婚をする人もいる。

「・・・時間は早いなぁ。」

暁羅さんがカメラのレンズをのぞき込みながら小さくつぶやいた。レンズの中には、まだ「彼ら」が「流されるしかない子ども」だった頃の無邪気な姿がうつっていた。

「それでも、俺らは帰ってきたんだよ。」

咲也が答えた。その声は澄んでいて部屋に響き渡った。それに反応するようにみんなの顔がカメラへと向いた。

いつからか「彼ら」は世界の厳しさに泣くだけの生活から、自分の力で「立ち向かう」ようになった。そしていつからか「支えられる」だけの弱さを捨て「支える」強さを胸に抱いた。
まだその途中にいる人たちもいるが「彼ら」は確かに「成長」していた。
「なんや・・・大きくなったんやな。」

暁羅さんは「彼ら」の「保護者」として走り回った日々をレンズを通して振り返った。決して自分だって「大人」ではなかった。

「暁羅、俺たちはここを離れた訳じゃないんだ。」

「・・・結局、こうして集まっちゃうんだよ。」
咲也の言葉に七海が続けた。そしてみんなが頷いた。

「・・・絆でした。」

一度はこの絆を消し去ろうとした。珱稚の言葉。
「彼ら」は確かに血がつながってなんかいない。「彼ら」は本来なら被害者であり、加害者でもあった。
それでも「彼ら」はここに集まった。

「俺たちは家族だからな。」

それこそが涼風の目指すところであり・・・暁羅さんの目指していたものだった。

「・・・撮るで!」

涙を袖でふいたあと暁羅さんはカメラのタイマーをセットしてもう一度レンズを覗いた。

そこから見える「彼ら」はもう、あの時の「彼ら」ではなく、年相応の顔になっていた。それでも、笑い合う姿には・・・なんの変化もなかった。
「あと3秒だぜ。」

「笑顔、笑顔!」

「あー、兄さん髪の毛グシャグシャしないでよー!」

「愛情だって、よしよし。」

なんにも変わっていなくて、暁羅さんは笑いながら昔のように注意をした。

「おーい、ちゃんと前向かんと!」

電子音とともに、シャッターが切られた。

その瞬間、彼らの歴史は一つが終わり・・・また一つが始まったのだ。

涼風のアルバム。
そこにはいつも「笑顔」だけが記されていた。