4月1日タイムリミット。答えを出すのか、それとも答えを偽るのか…それはすべて私次第だった。

「結論は…でたか?」

新幹線のホームに、三人は立っていた。本来なら、みんながこの場に集まるはずだったが…旅立つ者がそれを望まなかった。見送りは二人。
そこで、このややこしい日々も終わりを迎えることとなる。

「…咲也兄さんは、後悔してないの?」

ずーっと守ってきた涼風や私たちをおいて、東京へと行くことを…後悔してないの?

「してないっていったら…嘘になるな。やっぱり寂しいし、心配だよ。」
当たり前だよ。兄さんはきっと一番涼風を愛している人だったから。私はちょっと期待していた。今日はエープリルフール…もしかしたらすべてはどっきりなんじゃないかって。

「でも、それでも行きたいんだ。俺には…やりたいことがある。」

黒崎さんが出て行った時を思い出す。
あの時も、私は同じことを聞いた。
夢を追いかける人を…止める権利なんて私にはない。ましてや、ずっと縛り付けてきた兄さんをさらに縛り付けるなんてできない。
それから…三人で暮らして、私の考えも変わった。

「私、兄さんが大好き。きっと…ずっと、離れても。」

寂しいから、誰かを代わりにするのは間違ってる。

「黒崎さん…これから宜しくお願いします。」

これが、私の出した答え。咲也兄さんとは、対等につき合えるように努力する。黒崎さんとはパートナーとして支え合う。
「あーぁ…失敗だな。俺が後に出て行けば良かった。」

黒崎さんが笑った。
咲也兄さんも笑った。

「…いつまでも、待ってるから。頑張れよ!」

頭をたたく手が優しくて…私は涙を飲み込んだ。泣かないって決めたのに、心がふるえてしまう。
「…いつでも会えるさ。おまえが俺を忘れなければ。」

黒崎さんと会えなかったのは無意識に弱い私が、黒崎さんを忘れることを選んでしまったから。
私は…もう逃げない。

「すぐに追い抜くから、油断しちゃだめだよ!」
私も笑った。

新幹線がもう出発するとアナウンスが入った。小さく手を挙げて、兄さんがドアの向こうへと消える。

「黒崎、ななと涼風を頼むな!」

「任せとけって!」

ドア越しの会話。
ゆっくりと新幹線が動き出す。嘘じゃないんだ…やっぱり…兄さんは行くんだ。
今更、納得してしまった。

「七海…」

何かを言いかけて、ためらい言葉は続かなかった。

「すぐに…帰るからな。」

手を振った。見えなくなるまで…手を振った。

私はわかった。どうして兄さんが東京を選んだのかを…だって私、兄さんのこと考えたら…死ねなくなっちゃった。
生きていかなくちゃ…頑張らなきゃって思った。

「…なな、よく…頑張ったな。」

黒崎さんが抱きしめてくれた中で、私はずっと泣いていた。
言葉にはならなかった。
ホームには、たくさんの別れが溢れていた。

さぁ、私も歩き出そう。きっと…大丈夫。
次に会うときには、きっと私は強くなっている。
思いの強さが…私たちをつないでいる限り、私は何度でもやり直せる。