某ゲームのヒロインのようにぶかぶかのYシャツに寒いのでセーターを着込んだ非常に際どい姿をした七海ちゃんがぬいぐるみを片手に真夜中の咲也君の部屋へとやってきました。
深呼吸をして、ドアをノックします。すぐに返事が返ってきました。

「あの…兄さん…。」

別に今更恥ずかしい訳じゃないんですがなんとなく、言いにくそうに開いたドアの前でもじもじとしています。咲也君は苦笑いをしながら読んでいた本をおいて、自分の隣をあけてやりました。

「そんなかっこして寒いんだろ?おいで、一緒に寝ような。」

寒いというよりかはなんとなく寂しいからだったのですが喜んで布団に潜り込みます。まぁ、咲也君からしたらすべてはお見通しなんですが…。

「俺がいなくなったら、黒崎と寝るのか?」

一応、三人でいる間は互いに内緒で一緒に寝るのは禁止になっていました。でも咲也君と七海ちゃんはそれまでもよく一緒に寝ていたのであまり意味がありませんでした。
「…寝ないよ~。ななは咲也兄さんがいいんだもん!」

甘えたような声。寒いらしく体を寄せてきます。
「じゃあ、一人の時はどうすんだ?」

頭をなでながら、聞き返しました。自慢じゃないですが七海ちゃんは小学校卒業の頃には完璧なあまえたさんになっていました。いまさらなんとかなるとは思えません。

「にはは、そこはもう準備ばっちりなのさ!」

ぐいっと抱きしめていたぬいぐるみを見せます。よくよくみたらそれは金髪に近い髪をした男の子が、キリンの着ぐるみを着ているという…なぞなもので胸元には「咲也兄さん」と書かれていました。

「…これは、もしや俺?」

「藍音さんにもらったの~。」

大切そうに抱きしめていたぬいぐるみが自分というのはなんとなく居心地が悪いのでした。ちなみに藍音さんは太陽君人形や、黒崎さん人形も作って遊んで(?)いるらしいのです。

「…兄さんこそ、寂しくない?」

上目遣い。なんとなく熱を帯びた瞳がじっと見つめます。

「俺は…寂しいな。」

実は一番寂しがっていたのは咲也君なのでした。
「消えない思い出を…」

とかって言おうとしたその瞬間にドアが開きました。

「咲也~寂しいよな、やっぱり寂しいよな??」
そこにいたのはちょっと酔っ払った黒崎さんでした。手にはなにやら持っています。

「く、黒崎!?」

「これを…これをもってけぇ~!」

手に持っていたぬいぐるみを押しつけてきます。なぜか釘の刺さったぬいぐるみには黒崎と書かれていました。

「わぁ!リアル~。」

確かにそやつが血を吹き出しながら笑っている姿は夢にでそうなくらいにそっくりな様子でした。

「遠慮する!」

全力でかえしました。
なんだか呪われそうな雰囲気を醸し出している人形がこころなしか寂しそうです。

「かわりにこっちをもってくから!」

七海ちゃんをかつぎあげます。本人は楽しそうにわーぃ!とはしゃいでいます。

「毎日着せかえして、お風呂に入れて綺麗にしてやるからな。」

「わーぃ!どうどうとしたセクハラ~。」

ちょっと顔をしかめますが、そこまで嫌がってはいません。黒崎さんがそれを目にしてわめきます。

「連れて行くなら、俺を連れていってくれ~着せかえも許すから!」

「…男は近寄るなぁ!」
アッパー。いつものことながらいったん加熱したために大変なことになってきました。

「…せめて今日は一緒にねせてください。」

泣きながら土下座を始めますが、咲也君は冷たい瞳を向けました。

「男と寝る気はない!」
はっとして、七海ちゃんが咲也君から離れます。
「兄さん…ぼく…本当は男の子なんだ…。」

驚いたように目を丸くする咲也君でしたが、すぐに七海ちゃんを抱きしめました。

「七海なら…男でも大丈夫。許されるよ。」

「差別だぁ!」

黒崎さんがマジ泣きしそうになってきました。
すがりつきます。酔っ払いは怖いですね。

「…分かったよ。今日だけだからなってしがみつくなキモイ!」

二秒で、綺麗にパンチをされました。

「ねーむーぃー。」

一人眠りについた七海ちゃんをしりめに咲也君は黒崎さんと戦っていました。

「ほら、咲也腕枕したげるぞ。」

結構男前な黒崎さん。

「やっぱりおまえは一人でねやがれ!」

「もう遅い!…なぜなら眠いから…。」

そのまま眠りについてしまった黒崎さんをベッドから落として咲也君はため息をつきました。

「…こんな日も…終わるんだな…。」

騒がしい日々が続くごとに寂しさは大きくなっていきます。少しだけ…微笑みながら咲也君は黒崎さんの頭をなでました。
「ありがと、な。」

どうやら黒崎さんなりの思い出作りはまぁ、かなりズレてはいますがそれなりにうまくはいったようです。