七海ちゃんと往人さんがタッグを組んでから早数日。咲也君は悩んでいました。それはもう…悩んでいました。
いつも頭の中が綺麗なお花畑だった七海ちゃんがさらに電波キャラになってきたからだ。

「…往人、おまえ七海になにを教えてるんだよ!?」

血相を変えて聞いてくる咲也君に夜勤明け、なんだかんだで疲れた顔をした往人さんが面倒くさそうに答えました。

「…別に…普通だが…?」

この人の場合、なにが普通なのかがよくわからない。っていうか、もしかしたらこの人の普通が他の人の特殊、この人の特殊が普通の人の常識である可能性が高い。つまり、あのときはあまりの嬉しさにツッコミをいれることもなく認めてしまったが…大切な妹を危険な人物に預けてしまった可能性が高いことにようやく気がついた。

「おまえの普通は、猫耳つけてにゃーにゃー言わせて踊らせることなのか?」

「そうだ…そしてあれは…伝説の…ねこにゃんダンスだ!」

…言い切っちゃったよ。この人。
間違いなくだめな大人日本代表になれるよ。
たまりにたまったため息を吹き出す。

「あのな、いくら精神年齢幼稚園生でもあいつはもう…」

だいぶそう言う不思議ちゃんキャラでやり通すのが苦しい年齢なんだよ!と言いたかったらしい。精神年齢幼稚園生には誰も異論を挟めない。

「分かっている…だから…路線を…変えてみた。時に…咲也…先ほど儚げな…少女を見なかったかね?」

儚げな…少女?必死に頭を回してみる。そう言えば、往人のアパートの前で見たことのない少女を見かけた。確かに目があった瞬間に上品ににっこりしてお辞儀をした。

「あぁ、確かに…ちょっと涼風にはいないタイプの子を見たな。」

「…可愛かったか?」

「まぁ、適度に可愛かったな。」

一瞬見ただけで記憶に残っているということは、なにか目を引くものがあったんだろう。往人さんが楽しそうに目を細めている。

「…どんな感じ…だったんだ。」

なんでこんなに聞いてくるんだろ?不審に思いながらも、記憶をたどる。

「どんな感じ…って…ああなんかイマドキあり得ない感じのオーソドックスなセーラー服に…赤いスカーフで、三つ編み…色は白かったな。」

自分でも不思議なくらいに覚えていた。なんでだ?今時珍しい感じの子だったからか?あれ…本当になんでだ?

「…鼻の下…のびまくりだぞ…そんなにタイプだったのか?」

「別に…珍しかったから目に付いただけ…」

「…素直になれ…。あんな清楚な妹が…欲しいんだろ?」

「な!?…んなわけねーだろ?俺はお子ちゃまな妹がいいんだよ!」

と言うか、妹は性格で選ぶとかそーいうものじゃない。俺が認めたから妹なんだよ。と言いたかった…けどなぜか言えなかった。

「…まぁ…いい。おまえが…鼻の…下…伸ばしてたの…おまえの妹だぞ。」

いたずらの種明かしのように往人が言った。

「んなはずねぇよ!」

往人の視線を追って振り返ると後ろにさっきの少女が儚げなほほえみを浮かべていた。

「あ…えっ…と…」

しまった…傷つけちまったか?焦る咲也君の一方で往人さんがなにか合図をする。瞬間的に少女がカツラをとり、靴を脱ぐ。

「!?うそ…だろ?七海なのか?」

「私以外の誰に見えます?」

笑い方と声がそのまま七海ちゃんだった。カツラで三つ編み、靴で身長をカバーしていたのだ。

「どーだ…?なかなかだろ?」

もはや言葉にならなかった。完璧な演技だ。

「これからは…文学少女だ!」

「だそーだ!」

完璧に…騙された。
完敗だよ…。
なんだかとてつもなく悔しいから、黒崎にもやってほしいと思った咲也君だった。