車の中では、お互いになにも話せなかった。確認したいことはたくさんあるのに、言葉なんて役に立たなかった。
写真は見つかった。
それはいたって普通の家族の写真。
母親が小さい男の子の手を引いて、父親がそれより少し年上の男の子の肩に手をおいている。どいやら母親は彼らの妹か弟を身ごもっているようだった。
楽しそうに、幸せそうに笑っていた。

「…なんで…黒崎さんが鍵…持ってたの?」

不思議だった。黒崎さんが鍵を持っているのはどう考えても不自然だ。

「…俺も知らなかった。まさか…そのアルバムを開けるための鍵だったなんて…」

沈黙。

つなぐ言葉が見つからなかったんだ。

「フランスで…あいつの父親から預かったんだ。本来ならおまえに渡したかったらしいんだけどな。」

話を要約すると、咲也君のお父さんは自分の病気のことを考えた結果、自分がこれ以上これを持っていたらお母さんが来たときにアルバムの中のものが渡せないことに気がつき本来なら嫁になるはずだった七海ちゃんに託したかったんだと言うことだった。しかし七海ちゃんがいかなかったためそれは保留にせざるおえなかったために二人が結婚することになったら七海ちゃんに渡してほしいと言われていったん黒崎さんが持つことになった。

「ただ…なんの鍵かは言われなかったんだ。それは咲也が知ってるから…必要とされたときは渡してやってくれって。」

苦虫を噛んだような表情だった。咲也君には「頼まれていない」ことを二人はしようとしていたのだ。たまたま七海ちゃんはアルバムのことを知っていた。中に「いつかお袋に渡したいんだ。」と咲也君が呟いていたのを聞いていた。だから…本人が会えなくてもお節介でもいいから渡したいと思った。しかし、それは開かなかった。そこに偶然黒崎さんが「鍵」を持ってきたのだ。

「…ドラマチックだね。」

「そうだな。しかも…多分あとで咲也に怒られるな。」

咲也君は母親と会うことを拒絶した。つまり二人のやっていることは完璧に「お節介」でしかない。

「止める?」

「まさか。」

二人は一瞬視線を交錯させて、それから笑った。
「ドラマなら、ハッピーエンドもありだよね。」
「バッドエンドのプラグは潰したしな。」

また笑った。
三人は不器用すぎたのだ。不器用すぎて…空回りばかり。
でもいいや…今回は不器用なりに頑張ったから。

「今、何時?」

確認するように、黒崎さんが聞いた。

「3時15分。そろそろだね。」

頷くのを確認したあと七海ちゃんはポケットからもう一台携帯電話を取り出した。

「抜かりないな。」

「ありがと…じゃ、やりますか?」

素直じゃない咲也君を誘導するには…裏技を使うしかない。
プルルルル…コール音が響く。

「助けて…助けて兄さん!」

電話の相手が慌てている様子が目に見えて、黒崎さんは思わず笑ってしまった。しかし笑ってばかりはいられない。
自分は今…誘拐犯なんだから。

「わかんない!…わかんないよ…」

そのまま…混乱しろ。
わざと黒崎さんは自分の携帯電話の電源を切った。咲也なら…確実にGPSで位置を確認する。
そこに黒崎さんの携帯電話まであったら勘のいい咲也君なら気がついてしまう。

「…妹さんをそのまま帰してほしかったら…おとなしく金を持ってくるんだな。」

「…さ…兄さん…きちゃだー」

そこで電話を切る。
完璧だった。予想以上にうまくことはすすんだ。
「まったく…苦労する奴だ。」

「ほんとうだよ。」

あとはバレないようにうまく空港まで導くしかない。
二人は苦笑いをした。

「あと少し…間に合うよね?」

「間に合わせるしかないさ。」

祈るような思いで、二人は空港へと向かっていた。なるべく咲也君に家族の暖かさを…しってほしかったから。
私たちはもうハッピーエンドしかいらない。
それ以外は…すべてつぶしてみせる。