黒崎さんはお仕事、とは言えもうすぐなんだかんだでお昼を食べにわざわざここに帰ってくるはずだ。咲也君は珍しく教科書を開いたままシャープペンをくるくる回していた。

「いき詰まってるの?」
七海ちゃんが声をかける。過去に何度か見たことがあるから、分かるのだが…これは咲也君が分からなくて思考を巡らしている時の癖なのだ。

「ちょっと…いや…かなり。」

試しに七海ちゃんも教科書を見てみたのだが…

「…魔法の勉強?」

「いや、物理だけど。」
「…なにこの図?」

「これは、原子が…(以下略。)」

理系が破滅的な七海ちゃんには分かるはずもない。もちろん黒崎さんが帰ってきても文系だから分かるはずもない。

「まぁ、今日はもういっか!なな~なな~♪」

吹っ切れた咲也君が七海ちゃんを拘束して頭をなでなでする。問題は後で太陽君あたりに聞くことにしたらしい。
スキンシップが過剰。
最近の咲也君にはそれがレベルアップした。

「兄さん!私今日夢見たの・・・。」

くるくると感情に合わせてまわる瞳が咲也君をとらえた。

「どんな夢?」

「…クラウドと旅するの。でもそのクラウドはバグのデータで消えちゃうの。」

…こりゃまた、シュールな夢だと内心では苦笑いをしていた。

「それからどうしたんだ?」

優しく続きを促す。

「アイス…アイスを求めてセフィロスと戦うの!」

「なぜに!?」

超展開。まさかそんなカオスな夢を見ていたなんて。

「…私…負けちゃったの…だって、私は白魔導士だから…。」

遠い目をする七海ちゃん。

「世界から…アイスが消えるの…止められなかった…。」

自責の念にかられて、涙をこらえる七海ちゃん。…うちの妹はこんなんで大丈夫なのかとやや不安になる咲也君。

「ってわけでアイスが食べたいです!」

猫みたいに体をすり付けてくる。

「うーん…もうすぐ昼飯だからなぁ…」

甘やかしすぎていたことを反省した咲也君はちょっと迷いました。

「あーいーすー、あーいーすー!」

…しょせんは超シスコンの咲也君。断れるはずもなかったのでした。

「わかったよ。確か冷凍庫にアイス入ってたよな。」

七海ちゃんをかついだまま、咲也君が冷凍庫に向かいます。中には二人仲良く半分こして食べるアイスがありました。

「はい、七海。気をつけて食べるんだぞ?」

もはや扱いが幼稚園生レベル。咲也君は半分を渡して残りに自分も口を付けようとしました。

「あーいーすー!…うま♪」

満足そうな顔に良かったなと頭をなでなで…。

「ただいま~!…あー、ずるくね?俺にもアイス~。」

駆け寄ってくる黒崎さん(大きな子ども)に咲也君は首を振りました。

「もうないから。」

営業スマイル。

「えー、じゃあ咲也の一口くれよ。」

「男と間接キスする気はない!」

「うま♪うま♪」

「七海~ひとく…ぐっ!」

すぐさま、咲也君の平手打ちが入ります。

「七海と間接キスさせる気もない!」

なんだか険悪なムードです。二人の間に見えない火花が!?

「…決着をつける日が来たみたいだな…」

「あぁ…やるか…外にでろ。」

「望むところだ!」

こうして二人は牽制しあいながら外に出て行きました。その間に七海ちゃんが溶けちゃうからってアイスを食べてしまったのにも気がつかない可哀相な二人。

「うま♪…次はハーゲンダッツがいいなぁ~。」
平和な一日でした。