黒崎さんが帰ってきた。
「まったく!どこに行ってたんすか?」

太陽兄さんが真っ先に駆け寄った。口調は多少怒っているみたいだけど、顔は笑顔だった。

「仕事もしないで、団長失格なんじゃないのー?」

続いて亜水弥さんも駆け寄った。

「連絡くらいはしないとだめかな、かな?」

次は藍音さん。みんな笑っていた。そうやってみんなが黒崎さんを取り囲む。

ここは、もう黒崎さんの帰ってくる場所になったんだ。

…ごめんなさい。
私はその輪に入れずにいた。ただぼーっと見ていた。そして昔を思い出した。

晴一兄さん…繊細で優しくて誰よりも強かった。
…死んでしまった。

今でもあのときの痛みは覚えている。いや…違う忘れちゃいけないんだ。
私は知っている。
良い人ほど、必要とされている人ほど…先に神様に連れて行かれてしまうことを。
私を連れてってくれればいいのに…でも私はきっと最後なんだ。こんなにも望んでいるのに、私は生きなくてはいけない。

「…七海?」

握りしめた手が痛かった。横に立っていた咲也兄さんが私の方に手を回した。

「大丈夫、大丈夫だ。ここは俺にとっても大切な場所だから。」

小さくつぶやいた。
優しい声。でも確かに、確かに思いが詰まっていた。

「誰も俺にはなり得ない。」

私は顔を上げた。

「もちろん、黒崎もな。咲也は俺だけだ。」

笑っていた。
あぁ…そうだよ。兄さんは分かってくれた。
私の不安を…。
私は何度も兄さんを見失った…。

「ほら、黒崎になんかいわねぇと…そろそろあいつ泣いちまうんじゃね?」

私は不安だった。
晴一兄さんがいなくなって太陽兄さんが来たときみたいに、咲也兄さんがいなくなってそこに黒崎さんがはいってしまうことが…。

「七海、えーっと…これお土産。」

私の元に黒崎さんがやってきた。
手にはなぜか…なぜかハワイアンセンターの名前の書かれた包みを持っていた。

「…イルカ?」

そこにはイルカのぬいぐるみが包まれていた。

「可愛いだろ?」

…本当に…この人は…。
咲也兄さんは笑いをこらえていた。

「もー、いったいどこに行ってたんですか?」

気がついたら私も笑っていた。
みんなも笑ってた。

明日からもまたこんな日が続くことを、私はただただ…祈っていました。