寂しいから強がった。
黒崎さんが帰ってきてから…咲也兄さんは少し変わってしまった。
いつも強気で、俺様で、ナルシストのシスコン…でも誰より正義感が強くて…優しかった。
それなのに急にトレードマークの綺麗な髪を切ったり染めたり、無理して背伸びしている気がした。

「…雪降ってきた。」

なにもすることがなくて私と咲也兄さんは床に座り込んで窓の外を見ていた。いつもなら膝の上に乗っかるのだけど…悔しいから、そんな「弱さ」は見せる気がなかった。3月。もう少ししたら桜も咲くだろう。
雪もまたしばらく見れなくなる。

「…よし!行こう?」

「へっ?どこに?」

急に立ち上がった兄さんはなにもいうことなく私の手を引いた。そして玄関でバスケットボールをつかんで、近くの公園へと向かった。
久しぶりだった。昔はよくこの公園で兄さんたちがバスケをしていた。
ミニバス用のゴールが準備されている。

「悔しかったなぁ…まさか黒崎に負けるなんて。」

その場で軽やかにドリブルをしていた。
そうなのだ。兄さんはバスケがうまい。身長もあるから、うまくいけば企業でだってやっていける。
でも…それはすでに黒崎さんが通った道だった。
綺麗なフォームでボールが吸い込まれる。

「なぁ、勝負しない?」
「はぃ?」

意味がつかめなかった。
「勝負。フリースローでどっちがたくさん決められるか。」

…運動能力0の私にいいますか?

「へーぃ…どー考えても勝負が見えてるんですが。」

「そーだな。」

「そーだよ。」

なんとなく二人で笑った。久しぶりに兄さんを近くに感じた。

「ふむ…じゃあ俺はハンデつけるか。」

そう言うとフリースローの位置からさらにコートの端へと移動した。
おそらく、私ではボールが届くことすらないくらいの位置だった。

「…これならいいだろ?」

確かに…これなら勝てるかもしれない。

「5本勝負な。…負けた方は意地張るのをやめること。」

…それは負けられないですな。
私はボールを受け取るとゴールを見つめた。正直…バスケなんて何年ぶりだろ?



まぁ…結果は分かりきっていた。

「うぅ…なんでうけたんだろ…。」

後悔しても遅い。
私は二本しかいれられなかったのに対して兄さんは完璧に五本とも決めて見せた。

「まぁ、俺にバスケでかなうわけないだろ。」

アイツをのぞいてな…っと少し睨みつけた。
兄さんはそのまま私を…猫みたいに首をつかんで持ち上げた。

「なーぜーにぃー!?」
いいムードだったでしょ?普通そこは…

「抱きしめられると思った?」

ぐっ!?…図星だよ。
兄さんがにやにやと笑った。

「…たまには、二人っきりも良いだろ?」

…いまだに、猫みたいにつるされている。ため息しか出てこない。

「罰ゲーム、意地はるのやめて、思ってること言って。」

思ってること…。
言ったら…兄さん困っちゃうもん…私は口をつぐんだ。

「…黒崎が帰ってこないのは…七海が素直にならないからだよ。」

…なんとなく…なんとなく分かってしまった。
黒崎さんは…「咲也への思いを確認しろ」と言いたいのだろう。

「…おろしてください。」

私は、私が、私たちが言いたいことははじめから一つだった。
私は地面に足が着いた瞬間に全力でタックルをした。

「おっ!?…なにす…」
少しだけよろめいた。
でも私の顔を見て、兄さんは言葉を止めた。

「…行かないでください。」

泣きそうだった。
少しの間兄さんがいなかっただけで、私はすっかりダメになった。

「…私には…兄さ…咲也が必要なんです。」

時間が止まったみたいだった。
強引に頭をなでられた。
「…困ったブラコン…娘だな。」

「…うるさいです…シスコンのくせに…。」

お互い様だった。
つまり…つまり私たちは一緒にいないとダメなんですよ。

別れの日は…無情にもどんどん近づいてくる。