「七海~、起きろよ…なーなーみ。」

テストがないと言うことでぐっすり寝ている七海ちゃんの体を揺すりながら黒崎さんが呼びかけます。

「う…ん…あさごはんなら…きのうの…のこり…れーぞーこ…」

テストがないことを良いことに寝たふりをしてPSPを持ち込み遅くまでキングダム・○ーツの新作をやっていたのは咲也君が怒ってしまうから内緒です。困ったように少し顔をゆがませると、黒崎さんは屈んで耳元に顔を近づけました。

「なーな…起きないとキスしちゃうぞ?」

「…すれ…ば…?」

自称おおかみさんを相手に眠さが勝ってしまった悲しい現象でした。部屋の入り口に体を預けながら様子を見ていた咲也君が笑っています。

「教育方針…間違ったな。」

もう、お手上げとばかりに黒崎さんが咲也君にバトンタッチしました。

「はぁ…七海、いい子だから起きなさい?」

そう言って布団の中に手をいれるとなにかを探しているようでした。

「…兄さん…うるさ…ぃ…」

「七海、起きないならこれのデータ、フォーマットするけど…いいの?」
手には新型PSP…それに気がついた七海ちゃんの顔色が一気に変わります。

「ま、待って!起きる、起きるから、ザックスがまた遠くなっちゃう!」
すっかり覚醒した目で必死になって、PSPに飛びかかるのでした。

「おー…さすが咲也。手慣れてるな。」

「まぁ、あんたがいなかった三年間にいろいろあったからな。」

なんとかPSPを取り返すと、時間を確認します。まだ起きるには若干早い…というかこの二人がこんなに早くに起きているのが珍しかったりするのでした。

「うー…たまには朝ご飯くらい自分たちで作ってよぉ~」

早くも新妻失格でした。
「いや、そうじゃなくてこれを頼みたくてさ。」
ドサッと、ベッドの上には大量のコピー用紙が乗せられました。

「…なんですか…これは?」

ぱらぱらとめくってみる。なにやら台本らしいのだが、あちこちが抜け落ちている。

「…今日配る予定の新しい台本。なんだけど…」
黒崎さんが言いにくそうに咲也君に視線を向けます。

「…でも、これめちゃくちゃ…未完成、しかもプロットだけ見た感じでも某ドラマのパク…」

「そこをなんとかするのが、七海…うちのおかかえ脚本家のおまえの仕事だろ?…おっと大学にいかねぇと!」

「あ、俺も会社~…ごめんな。宜しく!」

パタリと閉まったドア…
一人残された七海ちゃんは叫んだのでした。

「アホーー!!」