とある地方都市のとある場所で小さくだけどやることは結構派手に活動している劇団がありました。これは…そこにいるただでさえ色物の団員たちの中でも際立って変わり者な三人の愛の共同生活の記録だったりする…。


次の公演を1ヶ月後に控えたある日、新団長である黒崎さんはいきなり
「台本を変える!」
と言い出しました。そんないきなりの提案にもあまり団員たちがビビらないのは先先代の団長の放浪癖につきあわされていたからだとか、違うとか。
とにかく中世ヨーロッパ風味の騎士道ものだった劇をガラッと某血の月曜日のドラマに正月にやっていた某国民的アイドルのドラマをあわせたような劇に変更するとのことでした。そのために前団長の咲也君と現団長の黒崎さんはミーティングルームで話し合いを行っていました。

トントン…ドアがノックされます。

「開いてるからどーぞ。」

ひょっこりと顔を出したのはトラブルメイカーの女の子、七海ちゃん。

「あの~二人が話し合ってる間に夕食の買い物に行ってきてもいいですか?」

実はややこしい過去に縛られたこの三人は数日前から三角関係(?)がもつれにもつれてお互いに抜け駆けをしないために共同生活を始めたのでした。
なんだかんだとややこしいことに変わりはないのですが気分はさながら新婚さん。

「あー、行ってきて良いぞ。ハンバーグ食べたいな。」

「うーん…昨日もハンバーグだったでしょ?栄養偏るからダメです!」

なかなか厳しい七海ちゃん。そこに咲也君が腕を伸ばしながら提案します。

「どーせ、俺がいてもここは進まないだろ?七海の荷物持ちについてくよ。」

ある意味抜け駆け行為にでた咲也君でしたが七海ちゃんが思いっきり首を横に振ります。

「や、大丈夫です!兄さんたちはじっくりゆっくりとミーティングをしちゃってください!」

「?なにそんなに慌ててんだよ?どーせここは俺必要ないし、車で行った方が楽だろ?」

挙動不審な七海ちゃんを不思議そうに見つめています。

「えっと…その…他によりたいとこもあるから…迷惑かけちゃうし…」

「ならよけいに荷物持ちが必要だろ?なー黒崎!」

兄さんを止めて!と懇願するように潤んだ瞳を向ける七海ちゃん。いいだろ?肯定しろよ!と睨みつける咲也君。
…二つの瞳に見つめられた黒崎さんは笑いながら立ち上がるのでした。

「よし!じゃあ、俺も行く。」

楽しそうな男たちに囲まれて、ため息をつく七海ちゃんなのでした。




「っと、買い忘れはないよな?」

スーパーで妥協策として豆腐ハンバーグの材料を買った三人。確認するように咲也君が袋をもちあげます。

「えっと…はい、ばっちしです…。」

「じゃ、次は七海の買い物だな。どこに行くんだ?」

「……イービン…。」

なぜか歯切れの悪い七海ちゃん。ちなみにイービンとはギャル系な服屋さんが入った七海ちゃん位の女の子がよく行く商業ビルでした。

「服でも買うのか?」

なぜか反応はなく、俯いたままどんどんとエスカレーターをのぼっていくのでした。
そして…。

「本屋?」

「授業で文学があるから…文学作品がほしかったんです。」

確かにこの言葉は嘘ではなかったのですが、少女は何冊か本を買うと、さらにエスカレーターをのぼっていくのでした。
そして最上階は…

「…漫画ばっかじゃねぇか!?」

思わず、頭を抱える咲也君と楽しそうにキョロキョロしている黒崎さん。そして忌々しげに顔を上げる七海ちゃん。

「だから…ついてきてほしくなかったんです…せっかくブラッ○ィ・マンディの新刊でたのに!」
なんとか咲也君をかわしてお目当ての漫画を手にしようとする七海ちゃんでしたが、お兄さんはそんなに甘くはありません。

「なーな…おまえ今テスト期間だろうが!漫画はレポート全部書いてからだ!」

他の部分については、甘やかしているのですが勉強については妥協を許さない咲也君。じと目で睨みつける七海ちゃん。
黒崎さんはその様子を子どもを見ているような気分で見つめながら、口にしてはいけないことを言ってしまったのでした。
「まぁ、一冊くらいいいじゃないか?息抜きしないと効率悪いし…俺も読みたいしな。」

やった!と笑顔全快の七海ちゃんはため息をつく咲也君を通り越して漫画を探しに行ってしまいました。

「くーろーさーき…あいつが一冊で満足するはずないだろうが…。」

「へっ?!」

咲也君の懸念通り帰ってきた七海ちゃんは約10冊ほどの漫画を抱えてました…。



「次はヤ○ダ電気です!」

目標達成でルンルン気分な七海ちゃんはもはやとまりません。そして止められないことを悟った二人はもはや荷物を持ってついていくだけでした。なんでもキン○ダム・ハーツの読み込みが遅いため容量の大きいメモリースティックがほしかったそうな。

「えっと~8ギガのメモリースティック~とケースと~保護シート下さい!」

楽しそうに店員さんに商品を頼む姿を目を細めながら見つめていました。
「ポイントはいかがしますか?」

「あ、使ってください。」

普段はほとんどポイントを使わない七海ちゃんがポイントを使うことに違和感を感じた咲也君がのぞき込むと…

「七海!それ劇団の共有のカードじゃねぇか!」
「な、なんのこと…かな、かな?さ、さーおなかすいたから帰ろ!頑張ってご飯作るからね!」

文句も言えないような笑顔をむけられ…かなりしたたかに育ったものだと、自分たちの教育方針の誤りにため息をつく二人なのでした。


こうして今日も三人の奇妙な共同生活は続いていくのでした。