5月24日(金)

 

久しぶりに大フィルの定期演奏会へ出掛ける。遡ると、2017年10月のエリシュカ以来。

今回の指揮はシャルル・デュトワ。もちろん、この人が目当て。

映像では幾度となくお見掛けしているが、実際に指揮するところを見るのは初めて。

2回公演の2日目。

 

午後7時開演@フェスティバルホール

 

♬ プログラム

① ベルリオーズ : 序曲「ローマの謝肉祭」

② ラヴェル : バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲

③ ベルリオーズ : 幻想交響曲

 

合唱 : 大阪フィルハーモニー合唱団(合唱指揮 : 福島章㤗)

管弦楽 : 大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター : 崔文洙)

指揮 : シャルル・デュトワ

 

 

オーケストラは、ヴィオラが上手前方に並ぶ通常配置。

前後半ともに弦は16型。

コンマスは首席客演の崔さん。トップサイドにコンマスの須山暢大さんが座り、万全の態勢で臨む。

 

1曲目の序曲「ローマの謝肉祭」は、精度よりも熱量。後半にかけての勢いには凄まじいものがあった。

冒頭のイングリッシュホルンのアリアが朗々と響き、それを今度はヴィオラが受け継ぎ、息の長いフレーズを歌心たっぷりに奏でる。

そんな長閑な前半部に対して、金管と打楽器で活気づく後半部は、幻想交響曲の「ワルプルギスの夜の夢」を先取りするかのような強烈な音響。かといって特定の箇所をデフォルメするわけではなく、デュトワが振るとフランス音楽ぽく聞こえるところが不思議。

 

続く「ダフニスとクロエ」の第2組曲は、贅沢にも合唱を省略することなく演奏される。

この組曲を合唱付きで聴く機会は、今後まず訪れないと思う。

総勢100名を超える合唱団は、第1部の「夜明け」で静かに曲が開始するところから段階的に声量を上げ、クライマックスの「自然の主題」に差し掛かるとオーケストラの強奏と歩調を合わせて、大地の目覚めを思わせる雄大な歌声を響かせる。歌詞のないヴォカリーズが、オーケストラと見事に調和していて、美しかった。

冒頭の木管のアンサンブルはやや纏まりを欠いたが、第1部では羊飼いをあらわすピッコロ、

第2部の「無言劇」では野津さんのフルート、コンマス崔さんのヴァイオリンなど、随所で独奏パートが立派なパフォーマンスを披露。

ポルタメントでパン神の絶望をあらわすところは、全体的に「牧神の午後への前奏曲」に通じる気だるさに包まれ、しっとりと艶のある響きを奏でる。この演奏中もっとも特徴があって、その表現力は秀逸だった。

終わり方ひとつをとっても、ゲルギエフとは違って非常にスマートな感じがする。

 

 

前半もよかったが、後半の「幻想交響曲」はさらにアンサンブルに磨きがかかり、先日の大野和士&都響を凌ぐ名演を聴かせる。

これまで接した数少ない大フィルの演奏においても、ベストであることに疑いはない。

カリスマ性がそうさせるのか、デュトワの指揮(要求)に懸命に応えようとするひたむきな姿に、感動を覚えるほどだった。

特に第3楽章以降の充実ぶりは目を見張る。まるでひとつの楽器からさまざまな音色が生み出されていると錯覚する見事な一体感。

因みにコルネットのオブリガードと、第4楽章のリピートはなし。

第3楽章のオーボエ、第5楽章の鐘といった舞台裏の楽器は、先日の都響の配置とよく似ていると感じた。

 

デュトワは、あまりテンポを揺らすことなく、じっくりと丹念にオーケストラを鳴らす。

象徴的なのは第1楽章の終盤で、盛り上がった余韻で何となく終わってしまいそうなところを、テンポを落として丁寧に描写していた。

他にも、第3楽章のヴァイオリンをはじめとした弦の繊細さなど、細部にわたって配慮が行き届いていた。

 

第3楽章を転機として、前半の第1、第2楽章は弦と木管による流麗な音楽、後半の第4、第5楽章は金管がブイブイと唸るデモーニッシュな音楽とに色分けされていた。

第1楽章では、ヴァイオリンとチェロバスといった向かい合う弦を対比させ、前者はフレーズ末尾にかけて力を抜くように軽やかに奏で、後者はスタッカートでリズムを強調する。特に低弦の「ガッガッガッ」という刻みが印象的。

第3楽章は白眉。

1曲目でも麗しい音色を奏でていた大島氏のイングリッシュホルンがここでも素晴らしく、ステージ裏の入口付近のオーボエと音を交わす。

緩やかなテンポのなかで、管、弦、打楽器が絶妙なバランスと微妙なニュアンスで織り成す音楽は、淡い色彩で描かれた水彩の風景画のようだった。

雷鳴をあらわすティンパニは思いのほか穏やか。強弱の烈しいコントラストよりも、4台によるアンサンブルをきっちりと聴かせることに重きを置いたのかもしれない。

木管の音色は、さすがにフランス風に聞こえはしなかったが、フルート、オーボエは好演。

第4楽章以降は、金管の鈍くて力強い音が唸りをあげ、荒々しさと激しさが前面に出る。大フィル本来の姿を思い起こさせる演奏だった。

 

この充実はデュトワ客演の賜物なのか、尾高さんが音楽監督に就任して以降の変化なのか。

普段、大フィルを聴いていない分際で言うのも何だが、

もし、デュトワに常任的ポジションで関わってもらえるのなら、オーケストラもますます向上していくのではないかと思わせる熱演だった。