3月31日(日)

 

3月最後の日。

3年続けて3月31日、オーケストラの日(ミミにイチバン)に開催される飯守さんのブルックナー・ツィクルス。番号順に演奏されてきたこのツィクルスもいよいよ第9番を迎える。

前半は、今年に入って関西でも名前をよく見掛けるようになったヴェロニカ・エーベルレが登場し、モーツァルトを弾く。

 

午後2時開演@ザ・シンフォニーホール

 

♬ プログラム

① モーツァルト : ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219 「トルコ風」 *

② ブルックナー : 交響曲第9番 ニ短調 (ノヴァーク版)

 

ヴァイオリン : ヴェロニカ・エーベルレ *

管弦楽 : 関西フィルハーモニー管弦楽団(コンサートマスター : 岩谷祐之)

指揮 : 飯守泰次郎(桂冠名誉指揮者)

 

 

チケットは完売のようで、通路の補助席まで開放されていた。

プレトークは、楽団長と飯守さんの問答形式。

楽団長がブルックナー9番の「版」の話を振ったところ、飯守さんはブルックナー9番との組み合わせ(シューベルトの未完成やモーツァルト云々)の話を始めるなど、所どころ噛み合わないところもあり。そんな飯守さんも今年で79歳。

この場で明言していなかったので、9番がツィクルス最終回かは定かでない。(来シーズンは0番?)

オーケストラは、チェロが上手前方に並ぶ通常配置。前半のモーツァルトは10型(10-8-6-4-3)。

 

 

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番のソリストを務めるヴェロニカ・エーベルレ。

今年9月には芸文でリサイタルを聴く予定。使用楽器は1700年製のストラディヴァリウス 「ドラゴネッティ」。

チラシに記載のとおり、当初彼女が弾く予定だったのは、同じモーツァルトのヴァイオリン協奏曲でも第4番。しかしながら随分と前に曲目を変更した。

エーベルレのモーツァルトは清新。神経質な感じはなく、伸び伸びと音を奏でる。

基本的には美音で、気品をもって明朗に歌い上げるといった、この協奏曲に相応しいスタイル。第2楽章では、その音色が最大限に効果を発揮した格好。

過度に繊細でなくヴィブラートにも節度がある。歌心に溢れているため伸びやかで、なおかつ静謐さの滲むAdagioだった。

両端楽章を彩る装飾的な弾き方も堂に入っており、軽やかで鮮やか。

 

関西フィルの伴奏は、テンポはやや遅めではあるが、冒頭の弦のトレモロに始まり、心が浮き立つような愉悦感が演奏の随所に出ていた。

飯守さんの指揮でしか聴いたことはないが、相性は割と良いのではないだろうか。

第3楽章は、独奏ヴァイオリンに強奏で呼応する77小節目あたりも力感があり、見事な切り替え。欲を言えばその後の「トルコ風」で、もっとそれらしい雰囲気が出せればなおよかった。あとコル・レーニョをもう少し揃えてほしいところ。

ホルンが最初やや浮いたように聞こえたが、馴染むのにそう時間はかからなかった。

 

ソリスト・アンコールでは、プロコフィエフの無伴奏ヴァイオリン・ソナタから第2楽章が演奏された。

 

 

休憩(男性御手洗いが混雑するというブルックナー・トイレ)を挟んで迎える、後半のブルックナーの交響曲第9番。オーケストラは14型の編成へと拡大。

飯守さんの第9番は、これまでに聴いた第6番以降の路線を継承し、剛毅で堂々とした佇まい。印象としては、巨大な歴史的建造物を前にして抱く畏敬の念に似ている。それでいて音楽には不思議と人間味がある。

全3楽章を一歩ずつ踏みしめるように、緩やかなテンポで進めていく。

 

第1楽章のブルックナー開始から63小節目までは、ダイナミクスの振幅が大きく、最初の山場では圧倒するように音が鳴り渡る。それは第6番冒頭の爆発的な音響を思い出させる。

第2楽章のスケルツォでは、「ダ・ダ・ダンダンダンー」のリズムが荒々しく野性的。昨年聴いたゲルギエフとミュンヘン・フィルよりも骨太で粗削りな印象。トリオではギアチェンジで加速。緩急とニュアンスの違いが鮮明だった。

第3楽章のワーグナーテューバは威厳をもって鳴ってはいるが、死をイメージさせるような暗さはなく、むしろ続く弦が奏でる第2主題にシリアスなニュアンスを感じる。情感豊かに広がる響きが素晴らしい。ティンパニのトレモロが鳴動し、音楽がドラマティックに高揚する。

 

この作品を初めて演奏する関西フィルは健闘していた。

金管群が十二分に威力を発揮した迫力ある演奏で、取り分け上手奥に9人を配置したホルン隊(うち4人が第3楽章でワーグナーテューバに持ち替え)が、随所で壮大な音を吹き鳴らしていた。

1番ホルンは高橋臣宜氏(東フィル首席)が前回の第8番に続き客演。ソロ・パートも見事だった。隣に並ぶ関西フィル首席の演奏が今ひとつ安定感に欠けていたことを鑑みると、この選択は正解だった。

その金管同様に効果的だったのがティンパニ。しばしばトレモロで音楽を勢いづけ、また時には引き締め、非常に強いインパクトを残し、秀逸だった。

木管ではオーボエとフルートのそれぞれの首席が好演。

オーボエは明瞭な発音でモチーフを奏で、繊細よりも決然とした感じ。フルートは取り分け第3楽章中盤以降の麗しい高音が印象に残る。

 

やはり飯守さんの指揮から生まれるけれんみのない音楽は、心に響く。

今年7月の第303回定期演奏会では、メンデルスゾーンの大曲 「エリヤ(エリア)」を指揮する予定。

もちろん聴きに行くつもり。