これまでは何故かスルーされることが多かった関西方面。

今回は兵庫県に立ち寄ってくれた。

しかも、ソリストにヒラリー・ハーンを伴って。

 

12月15日(土)

パーヴォ・ヤルヴィと彼が芸術監督を務めるドイツ・カンマーフィルを聴く。

ヒラリー・ハーンが弾くのは、モーツァルトの「トルコ風」。両者の共演でCDもリリースしている。

 

午後2時開演@兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

 

▶ プログラム

① モーツァルト : 歌劇 「ドン・ジョヴァンニ」 序曲

② モーツァルト : ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219 「トルコ風」*

③ シューベルト : 交響曲第8番 ハ長調 D944 「ザ・グレート」

 

ヴァイオリン : ヒラリー・ハーン*

管弦楽 : ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン

指揮 : パーヴォ・ヤルヴィ(芸術監督)

 

 

 

弦は8-7-5-5-3のヴァイオリン両翼配置。

これは全曲を通して変わらなかった。

 

1曲目の「ドン・ジョヴァンニ」序曲では、小編成ながらも荒々しいほどの強音を叩きつけて開始。ニ長調のAllegroでは、機動力を生かした小気味のよい演奏を展開する。

その前のAndanteの序奏部では、このコンビによるシューマンの交響曲にカップリングされている「ゲノヴェーヴァ」や「マンフレッド」の序曲同様、不気味なほの暗さを漂わせる。

重苦しさを一気に軽快な音楽へ解き放つと、爽快感がもたらされる。

 

 

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番より先に、ソリスト・アンコールの名演を称賛したくなるほど、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」第3番のプレリュードと、第1番のサラバンドが大きなインパクトを残した。

プレリュードでは寸分の狂いもない整然とした演奏に圧倒され、サラバンドでは哀感に満ちた最初の一音で涙が出そうになった。関西方面でリサイタルが行なわれなかったことは、返す返すも残念だ。せめて少し前に発売された無伴奏のCDを買うとしよう。

 

もちろん、本編のモーツァルトも盤石の演奏。

第1楽章のオーケストラによる快活な導入部に対して、ヒラリー・ハーンのヴァイオリンがしっとりとした光沢を放つ。変にテンポを揺らしたりすることもなく、悠然とした構えから優美な音色を奏でる。第2楽章の息の長い旋律を聴かせるたおやかなレガート。そして何よりもトリルをはじめとした装飾音がとても綺麗に響く。これらは特にモーツァルトの演奏には欠かせない要素だと思う。

第1楽章のカデンツァはヨアヒム作、であることが終演後ホワイトボードに明記されていた。

メヌエットで優雅に始まる第3楽章。トリオでは伴奏の弦が「ガッ、ガッ、ガッ」と、コル・レーニョで音を鳴らし、ヒラリー・ハーンもここはテンポよく奏でることで律動的な「トルコ風」を強く印象づける。奏者全員で「ダン・ダン・ダンダンダン」とリズムを刻み、この異国情緒を楽しんでいるようだった。

来日するたびに円熟味を増すヒラリー・ハーンのヴァイオリンを堪能した。

今回は終演後のサイン会はなし。彼女にしては珍しい。

 

 

シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」はひと言、鮮烈な印象を与えるアグレッシブな演奏。要因のひとつに挙げられるダイナミクスの尖鋭な変化は、前日パリ管を指揮したダニエル・ハーディングと重なるところがある。

このドイツ・カンマーフィルの前任の音楽監督がハーディングで、パリ管の前任の音楽監督がP.ヤルヴィ。これは何かの縁なのか、それとも両者に共通する特徴でもあるのだろうか。

アグレッシブの陰には弱奏の繊細さがあり、両者を鋭く対比させることで編成の小ささを感じさせない勢いや力強さ、延いては生き生きとした音楽が生まれる。

ドイツ・カンマーフィルは室内オーケストラらしく、アンサンブルがしっかりとしていて、管楽器の各パートが端正に鳴る、機動性の高いオーケストラ。

推進力をもって、ぐいぐいと音楽を前へと進めるパーヴォの指揮にも巧くフィットしていた。

 

第1楽章出だしのホルンのひと吹きから、通常の「ザ・グレート」とは異なる。インマゼールとアニマ・エテルナのような古楽演奏家が採用する快速テンポ。

そうしたテンポゆえに、提示部を反復しても長く感じることはない。

コーダに入ると一段とテンポアップし、勢いを強める。テンポは2度目の主題を迎えたところでようやく少し緩やかになり、そのまま楽章が閉じられる。

第2主題の後半では、ティンパニの連打に合わせて大胆にクレッシェンドさせていた。

このように強奏箇所は、堰き止めていた水を一気に放流するように音を増幅させる。

パーヴォとドイツ・カンマーフィルによるこれまでの録音からすれば、それほど驚くこともないかもしれない。

デッドなホールでコントラバスが3人ということもあり、時おり低音部が弱く感じられることもあったが、小気味のよい演奏がそれを補っていた。

この曲はやはり弦楽奏者にとって重労働なのか、終演後は何人もの奏者に手をほぐすような仕草が見受けられた。

 

アンコールは、パーヴォお得意のシベリウスから「アンダンテ・フェスティーヴォ」

 

さて、これで2018年の海外オケは聴き納め。演奏会もあとは京響の第九を残すのみとなった。