5月21日(月)

 

3日連続の演奏会もこの日で最後。

大阪市北区にある天満教会で弦楽四重奏を聴く。

 

演奏するのは、2012年結成の関西弦楽四重奏団。

大阪交響楽団コンミスの林さんや京響首席ヴィオラ奏者の小峰さんが、メンバーに名を連ねるカルテット。

だが何といってもこの日の演目、ハイドンの「十字架上のイエス・キリストの最後の7つの言葉」が、此処を訪れた主たる動機。

 

 

午後7時開演@日本キリスト教団 天満教会 礼拝堂

 

▶ プログラム

 

ハイドン : 十字架上のイエス・キリストの最後の7つの言葉

 

Ⅰ. 序奏

Ⅱ. 父よ、彼らを赦して下さい。彼らは何をしているのかわからないからです

Ⅲ. あなたは今日私と共に楽園にいます

Ⅳ. 女よ、そこにあなたの子がいます。そこに、あなたの母が

Ⅴ. エリ、エリ、レマ、サバクタニ!(神よ!なぜ私を見捨てたのですか?)

Ⅵ. 私は渇いている

Ⅶ. 果たされた!

Ⅷ. 父よ、私の霊をあなたの手にまかせます

Ⅸ. そして・・・地震が起きる!

 

関西弦楽四重奏団 :

ヴァイオリン : 田村安祐美,林七奈

ヴィオラ : 小峰航一

チェロ : 上森祥平 

 

 

各曲のタイトルは、演奏会で配布されたプログラムによる。

 

大阪天満宮の鳥居の向かって正面に位置する天満教会。

今まで知らなかったが、此処では定期的に演奏会が開催されているそうだ。

礼拝堂は1929年に建てられ、2012年にバリアフリー化、LED化のための改修工事が行なわれた。室内楽を演奏するには丁度よい残響だと思う。

 

そして、関西弦楽四重奏団。

ハイドンの円熟した弦楽四重奏曲をおよそ1時間かけて丹念に演奏していた。

率直に素晴らしかった。

 

1stの田村さんは、大阪交響楽団のコンミスを歴任後、京都市交響楽団ヴァイオリン奏者。

2ndの林さんは、大阪交響楽団のコンミス。

ヴィオラの小峰さんは、京都市交響楽団首席ヴィオラ奏者。

そして上森さんは、形態を問わず室内楽で活躍しているチェロ奏者。

室内楽やオーケストラが主戦場の4人だけあって、非常に綿密かつ均整のとれたアンサンブルで、じっくりと聞かせてくれた。

このきめ細やかなアンサンブルが、関西弦楽四重奏団の特長ではないかと思う。

 

ハイドンの「十字架上のイエス・キリストの最後の7つの言葉」は、スペインのカディス大聖堂の司祭からの依頼で、当初は管弦楽用として作曲された。

その後、より広く演奏されるために作曲者自身により弦楽四重奏用に編曲された。

Adagio - Largo - Grave - Grave - Largo - Adagio - Lento - Largo

Prestoの終曲を除く各曲の速度標語を見るだけで分かるように、この作品の大部分は遅いテンポの曲が占める。これは聖金曜日の礼拝で、司祭の説教のあと、黙想する際に演奏される音楽として作曲されたためである。

演奏自体はそれほど難しくないらしいが、遅いテンポばかりの曲をどのように描き分けるかは大きなテーマ、におそらくなるのだろう。

 

関西弦楽四重奏団は、この微妙な速度の変化に神経を尖らせるのではなく、「重々しく」や「幅広く緩やかに」など、曲想のひとつとして捉え、演奏に投影しているようだった。

普段聴いているゲヴァントハウス弦楽四重奏団は、「7つの言葉」と音楽との関連性が希薄に思えたが、関西弦楽四重奏団の場合、実演ならではか、または彼らの演奏がそう感じさせるのか、両者に結び付きが感じられた。一貫性もあり、よかった。

カディス大聖堂の司祭が行なったように、説教と黙想を伴う形でも聴いてみたくなった。

 

序奏はMaestosoを意識し、毅然とした演奏で始まる。

「あなたは今日私とともに楽園にいます」では、どこか寂寥とした第1主題が重々しく奏でられ、「果たされた!」と「父よ!私の霊をあなたの手にまかせます」では、心を穏やかにさせるゆったりとした流れ。

少し色合いの異なるのは「神よ!なぜ私を見捨てたのですか?」で、取り分け重要なこの言葉において、主題はやや鋭く、歯切れのよい調子で響く。そこには悲嘆が滲んでいた。

Prestoの”地震”までもが、ゆっくりとした立ち上がりだったことに意表を突かれる。

几帳面にスタッカートと6連符を弾き分けていたが、ここは「con tutta la forza(全力で)」のとおり、もっと勢いを前面に出したほうがよかったのでは。唯一、腑に落ちない点だった。

 

1stの田村さんは、渋みのある音色で適度にヴィブラートをかけ旋律を奏でる。

終盤、音が若干かすれ気味に響くところが気になった程度。曲に合う響きだった。

2ndの林さんとヴィオラの小峰さん、内声部を受け持つ二人の安定感が光る。

ある時は1stとユニゾンで旋律を弾き、またある時は分散和音で伴奏する2ndは大いに活躍。

「私は渇いている」の主題では、両者による全く乱れのないピッツィカートが聞かれた。

 

終演後は、鳴り止まない拍手に対し、ヴィオラの小峰さんから「この偉大な作品のあとでアンコールは演奏できない」という丁重なお断りのコメントがあり、その代わりとして、現在進行中のベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会をさり気なく告知。あわせて今後の意気込みを語っていた。

これからが楽しみなカルテット。ぜひ、長くコンスタントに活動してもらいたい。