4月13日(金)
京都市交響楽団の2018/19シーズン最初の定期演奏会に出掛ける。
イギリス人とイタリア人の両親がともに音楽家という、ロンドン生まれイタリア在住の指揮者、ダミアン・イオリオが客演し、レスピーギの”ローマ三部作”を指揮する。
この指揮者、今回が日本デビューとの由。
午後7時開演@京都コンサートホール
▶ プログラム
レスピーギ : ローマ三部作
① 交響詩 「ローマの噴水」
② 交響詩 「ローマの松」
③ 交響詩 「ローマの祭」
管弦楽 : 京都市交響楽団(コンサートマスター : 泉原隆志)
指揮 : ダミアン・イオリオ
コンマスが1人体制となって初めての定期。
各奏者がばらばらに入場していた従来とは異なり、この日は一斉に入場し配置に就く。
これも小さな変化!?
珍しく入場時に大きな拍手が起こる。
オーケストラはヴィオラが上手前方に並ぶ通常配置。弦は14型。
チェレスタとハープ2台は、2ndヴァイオリンと木管の間、オルガンは上手側最後方、そしてピアノは下手側最奥にそれぞれ置かれる。
バンダのトランペットとトロンボーンには吹奏の際、スポットライトが当たる仕組み。
2ndヴァイオリンにN響の白井篤氏、ホルンには日本センチュリー響首席(前京響副首席)の水無瀬さんが客演。
吹奏楽の定番曲でもあるためか、普段より制服姿の学生が多い。
『ローマの松』と『ローマの祭』との間で、一旦休憩が入る。
立て続けに3曲演奏してくれてもよかったが、それだと1時間くらいで終わってしまうからそうもいかないのだろう。
① ローマの噴水
『昼のトレヴィの噴水』を聴くと、どうもR.シュトラウスのアルプス交響曲や、ツェムリンスキーの人魚姫を思い浮かべてしまう。頂点の形成の仕方や弦の音型などは前者に似ている。
この曲と、勢いよくホルンが鳴り渡る『朝のトリトンの噴水』も悪くはないが、
それ以上に『夜明けのジュリア谷の噴水』と『黄昏のメディチ荘の噴水』といった”静”の2曲における精妙な演奏のほうが印象に残る。
ジュリア谷-の冒頭の2ndヴァイオリン、その後の弦の響きは夜明けからもう少し時が経過した早朝の清冽な泉のよう。一方メディチ荘では、ハープとチェレスタが描く黄昏の空に、コンマスのソロやフルートが静かに音を重ね、悠久の自然をあらわす。
通常ならヴィオラが弾いてもよさそうな中音域を1stヴァイオリンが奏でるといった、レスピーギこだわりのオーケストレーションも聞こえる。
② ローマの松
『カタコンベ付近の松』冒頭のヴィオラとチェロバスによる引き締まった低音部が、騒々しい『ボルゲーゼ荘の松』と鮮烈な対比を成していて見事。更に後半にかけては、金管の斉奏が厳めしく鳴り響き、賛歌が重々しく辺りを漂う。
続く『ジャニコロの松』もよかった。特にクラリネットのソロが素晴らしい。
首席奏者の小谷口さんが奏でる少し物悲しげな調べが、幻想的な空気に溶け込み、しみじみとさせる。
後半、ピアノから放たれるきらきらとした色彩がドビュッシーの作品を思わせ、夜鳴き鶯の囀りが美しくホールを包む。おそらくスピーカーを通して音源を流していたと思われるが、別世界へと誘うような効果をもたらしていた。
『アッピア街道の松』でのバンダは力を十分に発揮したとは言い難いが、さすがに終盤は耳を刺激する壮大な音響が聞こえてきた。
③ ローマの祭
最後方に11名の打楽器奏者が並ぶ、後半の『ローマの祭』
表現面や色彩は3曲中で最も充実していた。
最初の『チルチェンセス』でのバンダは前曲から規模を縮小したものの、位置を客席により近づけ、力強い音を吹き鳴らしていた。
そのバンダを除けば、弦の激しいトレモロ、悲鳴のような木管、暴力的な金管と打楽器(タムタムの貢献大)により、曲想に沿った悲劇の色合いが強い音楽を展開。能天気すれすれに楽観的なバンダとは好対照。
続く『五十年祭』ではやや遅めのテンポを採り、ヴァイオリンが重々しく音型を反復する。その隙間を縫って、不協和音を投じるヴィオラとチェロバスが不気味。
ホルンはこの日の充実を象徴するかのように高らかに響く。
『十月祭』では、マンドリンによるセレナーデが雰囲気を一変させる。チェロと2ndヴァイオリンの間から彩りを添える。そしてそれを受け継ぎ、愛の歌を情熱をもって歌うヴァイオリン。
このセレナーデや『主顕祭』の民謡調では、イタリア在住の指揮者らしく歌心たっぷりで、大らかに楽器を鳴らす。
喧しい小クラリネットを合図に、飽くことのないどんちゃん騒ぎが始まる『主顕祭』。
トロンボーンのソロによる酔っぱらいも、その存在をしっかりアピール。様々なモチーフが入り乱れ、最も祭らしい活気に溢れる音楽を展開。その勢いのままフィナーレを迎える。
『五十年祭』で1箇所、鐘の鳴るタイミングがずれたが、京響の演奏は盤石だった。
英国由来の洗練された感覚と、歌心豊かで陽気なイタリア人気質が、バランスよく顔を覗かせるダミアン・イオリオの指揮。
盛り上げ方も巧いが、メディチ荘やジャニコロ、また五十年祭と十月祭における丹念な描写にセンスを感じさせ、そこが好印象。
大きな拍手と歓声に包まれた日本デビューだった。
珍しくアンコールがあり、ポンキエッリ作曲の歌劇「ラ・ジョコンダ」から「時の踊り」を演奏。
10分弱とアンコールにしてはやや長かったが、面目躍如の好演だった。