10月13日(金)

前日に続き、この日も京都。2日連続というのは今までになかったような・・・。

京都市交響楽団の第617回定期演奏会を聴きに行く。
広上さんによるブラームスの第2回で、第1番を演奏する。
ソリストにボリス・ベルキンを迎えた、前半のショスタコーヴィチのコンチェルトも楽しみ。

京都では今月この公演1回のみ。ということもあって、チケットは2日前に完売。
15日(日)に芸文センターで、今回とまったく同じプログラムの西宮公演を開催する。

午後7時開演@京都コンサートホール


▶ プログラム

① ウォルトン : 「スピットファイア」前奏曲とフーガ
② ショスタコーヴィチ : ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調
③ ブラームス : 交響曲第1番 ハ短調

ヴァイオリン : ボリス・ベルキン
管弦楽 : 京都市交響楽団(コンサートマスター : 渡邊穣)
指揮 : 広上淳一(常任指揮者)




オーケストラは、ヴィオラが上手前方に並ぶ標準的な配置。
2ndヴァイオリンはN響次席の白井篤氏、チェロは広響首席のマーティン・スタンツェライト、そしてフルートは東フィル首席の斉藤和志氏が、それぞれ客演し首席を務める。


① ウォルトン : 「スピットファイア」前奏曲とフーガ

スピットファイアは、「バトル・オブ・ブリテン」で活躍した英国空軍の戦闘機で、この飛行機を重い病に冒されながら開発した航空技術者R.J.ミッチェルの人生を描いた映画。

如何にも広上さんが得意そうなオーケストラが派手に鳴り渡る曲。
前奏曲では幕開けに相応しく、華々しいトランペットのファンファーレに始まり、スケール感のあるオーケストラサウンドを炸裂させる。アンサンブルの面でやや大味な感もある。
ヴィオラから始まる弦によるフーガは、戦闘機の組み立ての場面で使われたそうだが、切迫感のある演奏でシリアスに展開。
途中のソロ・ヴァイオリン、いくら余命幾許もない主人公を表現するといっても、音がか細すぎ。弱奏のオーケストラに埋もれてしまっている。

前奏曲が終わったところで、パラパラと拍手が起こる。
曲名ちゃんと見た!?前奏曲と『フーガ』でしょ。


② ショスタコーヴィチ : ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調

ボリス・ベルキン、何ともミステリアスなヴァイオリニスト。
緩やかなテンポにおける音程が乱れがち。
第1楽章冒頭のフレーズやパッサカリア楽章のカデンツァ導入部は、音に覚束なさを感じる。
特に第1楽章はモノローグが行き過ぎ、ヴァイオリンが浮いてしまった感じがする。
一方、速いパッセージでは指も滑らかに動き、鋭いキレを見せる。そして驚くべき技巧を軽々と繰り出す。第2楽章のスケルツォと最終楽章が顕著。そこでは音の乱れもほぼない。
音色そのものは艶があって美しく、ハーモニクスではこの上ない美音を響かせる。
音の安定の問題はさておき、やはりこの難曲における確固とした信念を感じさせる演奏には説得力があり、この作品を自家薬籠中の物としていることが伝わってきた。

オーケストラはしっかりと作り込まれた演奏で、独奏ヴァイオリンを盛り立てる。
終演後すぐ、ベルキン自らが指差してその演奏を讃えていたテューバ。
珍しく金管群のちょうど中央に配置されたこの楽器が、裁判官入廷のテーマのように厳粛な雰囲気に満ちたパッサカリア楽章で、見事な吹奏を披露する。
この楽章では、他にチェロバスやファゴットなどの低音を担う楽器がもの悲しい音色を重ね、強固な土台を作っていた。
第1楽章は抑制された響きで暗澹とした雰囲気を生み出し、
第2楽章ではトリオで闖入する行進調をやぶれかぶれといった感じで、豪快に鳴らす。
最終楽章の入りでは思い切りよく雪崩れ込み、その後の快速かつ熱狂的なフィナーレの口火を切っていた。

この作品は傑出している。実際の演奏を聴くと改めてそう思う。



③ ブラームス : 交響曲第1番 ハ短調

長期にわたって築き上げた信頼関係の賜物か。
広上さんが指揮すると、14型のオーケストラでも本当によく鳴る。1曲目の「スピットファイア」からそうだったが、厚みのある音で迫り来るよう。

このブラームスの1番では、最近の若手指揮者に有りがちな颯爽としたテンポの推進力を売りにした演奏と対極を成すような、じっくりと腰を据えたアプローチ。提示部もきっちり反復。
全編がゆっくりと進行するなか、特に最終楽章は慌てず急がず、たっぷりと時間をかけて各パートを丁寧に鳴らしていた。序奏のピッツィカートも、途中で急速にテンポアップすると思いきや、かなり控えめな速度の変化に留まる。

数少ない注文を挙げるとするなら、中間楽章にめりはりが乏しかった(第3楽章のテンポが遅い)ことと、第3楽章の1stヴァイオリンの高音がややぎすぎすしていたことくらい。

ホルンは第1楽章の前半は3番、4番、後半では1番、2番奏者が活躍。
最終楽章のアルペンホルン風は音量、音色のバランスを保ちつつ、息の長い旋律を豊かに奏でる。この日は、各奏者とても音がよく通り安定していたが、特に2番の小椋さんは素晴らしかった。
オーボエのソロは、第2楽章よりも第1楽章序奏が良かった。発音が明瞭で尚且つ響きが滑らか。その他、最終楽章のティンパニは小気味の良い音で、補助動力装置のようにエネルギーを供給していた。

第1楽章は「タタタターン」というリズム動機を金管に強調させ、ベートーヴェンの影をちらつかせる。
中間楽章が地味に聞こえたのは、弦のアンサンブルに重きを置いたためかも知れない。
ヴィオラの音を増幅させるなど、広上さんは指揮台から弦の各セクションに細かく指示を出していた。
第2楽章のヴァイオリンのソロは好演だったが、コンマスの渡邊さんはこうした独奏でいつもオーケストラの方に体を傾けて弾くので、どうしても音が遠く聞こえる。泉原さんみたいに客席の方を向くだけで、聞こえ方も随分変わると思うが・・・。

両端楽章が特に素晴らしく、チェロバスの音がずしりと響く重心の低い演奏は想像以上、エンジン全開のエネルギッシュな指揮ぶりは予想どおり。
大熱演と言うべき濃厚なブラ1。すべての奏者に拍手を送りたい気分。
その出来栄えは、今年4月に聴いたズヴェーデンと香港フィルの数段上を行っていた。