3月14日(火)
誕生日の夜をコンサートホールで過ごすのは、今回で2度目。
プラハ交響楽団の来日公演。
海外オケにしてはチケットの価格が驚くほど低いということ、
そして演目が『わが祖国』という、これまで実演を聴いたことがない作品だったこと、これら二つの要因で京都にやって来た。
今回指揮するのは、過去に同楽団の首席指揮者を務めたペトル・アルトリヒテル。
午後7時開演。会場は京都コンサートホール。
▶ プログラム
スメタナ : 連作交響詩『わが祖国』
管弦楽 : プラハ交響楽団
指揮 : ペトル・アルトリヒテル

低価格戦略が奏功してか、会場はPブロックもぎっしりのほぼ満席状態。
ヴィオラが舞台の上手前方に構える、標準的なオーケストラの配置。2台のハープは下手側に並ぶ。
この演奏会は、京都・プラハ姉妹都市提携20周年記念事業の一環ということもあり、冒頭には大使によるスピーチがあった。
さらに予想外だったのは、第3曲と第4曲の間に休憩があること。
各曲が独立した交響詩なので別にそれでも構わないが、連続して聴くことができず落胆したのは事実。
各楽器が幾分くぐもるように聞こえるプラハ響の音。
そこに洗練された感じはないが、アンサンブルは良好で、響きには円みと温もりが感じらる。
2台のハープが慎重に呼吸を合わせながら、ゆっくりと音を紡ぐ、第1曲『ヴィシェフラド』の出だし。
アルトリヒテルの指揮は、腕を左右に大きく振るダイナミックなものだが、ここでのオーケストラの反応はやや鈍い。しかし、下降音型のパッセージで俄かにコントラバスがその威力を発揮するなど、この作品における熟練を感じさせる箇所が幾つかあった。
第2曲『モルダウ』の冒頭、2本のフルートはやや遅めのテンポ。前曲同様、慎重にうつる。
有名な主題では、郷愁の類を醸し出すのではなく、心に沁み込んだ歌を口ずさむように、外連味なく旋律を奏でる。
ヴィオラなどの伴奏音型もバランスよく鳴り、旋律だけでなく川の流れをも意識させる。
また”村の婚礼”では、明らかにテンポアップし、律動的に演奏。村人が生き生きと踊るようすを描く。
上手からはトランペット、下手からはピッコロと、甲高い音に挟まれる”聖ヨハネの急流”。
そこから長調へと転じるフィナーレで、オーケストラに躍動が生まれる。
これまでにない激しさで復讐のテーマを奏でる、第3曲『シャールカ』の冒頭。
シャールカの哀願(泣き声)をあらわすクラリネット・ソロ、
ツチラドの求愛を表現するチェロ、
泥酔するツチラドのあくびや鼾を模したオーボエとファゴット、
シャールカの攻撃の合図を吹き鳴らすホルンなど、
各々、主要なモチーフはオーケストラに埋もれることなく、はっきりと聞こえる。
(偽りの)愛の場面におけるオーケストラが取り分け優美。この場面の描写と彼らの響きがうまく調和していた。
いよいよ復讐が始まろうかというクライマックスで、激情的に響くクラリネット、
そして勢いよく燃え上がる炎を見るような、弦の弱音からの立ち上がりが、特に素晴らしかった。
『シャールカ』の演奏で、漸くエンジンが温まったところで一旦休憩。
後半は第4曲『ボヘミアの森と草原から』で幕開け。その冒頭が豪壮に鳴ったのには少し驚いた。力感だけで言えば、見違えるようにパワフル。
前半では強奏になると、ティンパニとシンバルが必要以上に目立ってしまうきらいもあったが、後半はオーケストラが一丸となってこちらへ向かってくる迫力を感じた。
珍しくフルートが鮮明に響き、オーボエとファゴットが奏でる牧歌の隙間をそよ風のように吹き抜ける。
1stヴァイオリンから始まるフーガは整然としていて、繊細。
また、tuttiによる自然賛歌のフレーズは、まるでナショナル・アンセムのように堂々とした佇まいで、雄大に鳴り響く。
第5曲の『ターボル』と第6曲の『ブラニーク』は、指示どおり続けて演奏される。
両曲ともチェロバスがずしりと響く重厚な弦のアンサンブル主体で、力感みなぎる演奏を展開。
『ターボル』では、Allegro主部における緊迫感、また『ブラニーク』では、冴えわたるオーボエが見事。
ホルンが少し特徴的で、抑揚をつけ「ぶぁん」と絞り出すような感じで鳴る。時にそれが弱く感じられることもあった。トランペット、トロンボーンなどその他の金管は、特に第6曲の後半で「汝ら神の戦士らよ」のモチーフを、ファンファーレ風に勢いよく吹き鳴らす姿が印象的。
勇壮に鳴り響くなかで、『ヴィシェフラド』の循環主題が高らかに回帰すると、やはり気分も高揚する。
第3曲「シャールカ」以降のメリハリと充実ぶりには、目を見張るものがあった。
本場チェコのオーケストラによる演奏で、いいモノ聴けたなというのが率直な感想。
次は、是非全曲を"一息に"聴きたい。