1月30日(土)
無謀にもバレエ鑑賞に出掛ける。もちろん初めて。
演目は『くるみ割り人形』。
踊りがさっぱり分からなくとも、色彩豊かでメルヘンチックな音楽が退屈させることはないだろうと踏んで予約。
妻もバレエを観たことがないらしく、いい機会と思い、子どもを実家の両親に預けてふたりで行くことにした。
会場は、今年の1月10日に以前の京都会館から装いを新たにオープンした『ロームシアター京都』のメインホール。
2月には小澤征爾音楽塾オペラが、10月にはワレリー・ゲルギエフ指揮によるマリインスキー・オペラが上演される。
午後5時開演。


ロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミー『くるみ割り人形』(全三幕 エピローグ付)
音楽 : ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付 : ワシリー・ワイノーネン
指揮 : ワレリー・オフシャニコフ
演奏 : 京都市交響楽団
合唱 : 京都市少年合唱団
主なキャスト
マーシャ/プリンセス : マリア・イリューシキナ
くるみ割り人形/王子 : エフゲニー・クズネツォフ
少女マーシャ : アンナ・シャローワ
ドロッセルマイヤー : ワディム・シローチン

ロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミーは、
卒業生が世界最高峰のバレエ団で活躍していることから、”クラシック・バレエの源泉”といわれる。

舞台の下はオーケストラピット。
1階席からは、中のようすを窺い知ることはできず、指揮者が登場してもその姿が見えない。
しかし、普段のコンサートホールとは異なる歌劇場という空間。それだけで胸が高鳴る。
今回の『くるみ割り人形』は、全三幕で構成され、
主人公の少女マーシャが夢から目覚め、くるみ割り人形を抱きしめるというエピローグが付いている。
幕間でそれぞれ20分の休憩を挟む。
招待客がシュタリバウム家を訪ね、彼らが帰路に就く夜更けまでが第一幕。
薄明かりの中、招待客が次々と建物の中に入っていく情景が、幕が下りるとたちまち大広間での華やかなクリスマス・パーティーへと転換する。目映いほどのコントラスト。
『行進曲』での子どもたちの愉快な踊り、ゼンマイ仕掛けの人形のアクロバティックな踊り、老夫婦のたどたどしい踊りなどが繰り広げられ、賑やかに展開する。
そうした中、ドロッセルマイヤーからくるみ割り人形をプレゼントされた少女マーシャの、可憐でしなやかなジュテによる歓喜の踊りが見事だった。(約30分)
第二幕は、ベッドで少女マーシャが眠りにつく場面から、王子と夢の国へ旅立つところまで。
舞台は終始、深い青の照明を中心とした薄暗い夜更けの情景。
午前0時を告げる鐘のオブジェは、どことなくデモーニッシュ。(フクロウの目が光る)
スクリーンに描かれたクリスマス・ツリーを巨大化することで少女マーシャを小さくする手法や、
おもちゃの兵隊とねずみたちによる一進一退の攻防、
そして、スリッパを投げてねずみの王様を撃退した少女マーシャとくるみ割り人形が、暗転後に王子とプリンセスに変身する設定もトラディショナルだが、そのほうがメルヘンチックな世界に没頭できて良い。
最後は少女たちの合唱を伴い、腕に雪洞の飾りを付けた雪の精たちの踊りが幻想的にしめくくる。(約25分)
第三幕は、個性的なダンスの競演ののち、花のワルツ、パ・ド・ドゥ、終幕のワルツとアポテオーズでクライマックスを迎える。
舞台は、城を描いたスクリーンが背景にあるだけの至ってシンプルなもの。
ディヴェルティスマンのなかでは、軟体動物のようなアラビアの踊りと、くるくるとターンを繰り返す曲芸的な中国の踊りが面白い。
パ・ド・ドゥにおける王子のヴァリアシオンは舞台をいっぱいに使ったダイナミックでスピード感のある踊り。
続いてプリンセスが、『ドラジェの精の踊り』のタ・タ・タンのリズムに合わせ、軽やかに舞う。
コーダで王子とプリンセスのほかに男性が数名登場し、交代でプリンセスを持ち上げるハイ・リフトを多用していたことに、唯一の違和感を覚えた。
終幕のワルツとアポテオーズでは、白とピンクの衣装に身を包んだダンサーたちが舞台を埋めつくし、華やかなフィナーレ。(約50分)
技術的なことはほとんど何も分からないが、
空中で何度も足を交差させるアントルシャは、素人目にもテクニカルで、印象に残った。
オフシャニコフと京響は素晴らしく、
第7曲の情景『戦い』や第8曲の情景『冬の松林』での活力と高揚感のある音楽、
第9曲の『雪片のワルツ』での時に幻想的で時にスリリングな音楽など、踊りと調和したしなやかかつダイナミックな演奏を披露した。
個人的には、マーシャが小さくなる(クリスマス・ツリーが巨大化する)ときに流れるミステリアスな音楽と『葦笛の踊り』でのフルート三重奏の演奏がお気に入り。
妻は、『くるみ割り人形』の踊りと音楽にすっかり魅了されたようで、
家に帰ってからも人知れず『行進曲』の指揮の真似をするなど、初めてのバレエに上機嫌のようす。
でも、演目が『くるみ割り人形』でなかったら、ふたりとも厳しかっただろうなー。