11月11日(水)豚まんの日。
今年最後の外来オーケストラの演奏会に出掛ける。
もう10年以上も前に現在のhr交響楽団に改称しているにもかかわらず、名前の通りが良いためか未だに旧称のフランクフルト放送交響楽団と紹介されるオーケストラの来日公演。
会場はフェスティバルホール、午後7時開演。
・ プログラム
① バーンスタイン : キャンディード序曲
② チャイコフスキー : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
③ ブラームス : 交響曲第1番 ハ短調
ヴァイオリン : 五嶋龍
管弦楽 : hr交響楽団
指揮 : アンドレス・オロスコ=エストラーダ(音楽監督)

今回の指揮者オロスコ=エストラーダは、現桂冠指揮者パーヴォ・ヤルヴィのあとを継いで、2014/15シーズンからhr交響楽団の音楽監督に就任。
現在、佐渡さんが首席指揮者を務めるウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の前任者でもある、1977年生まれコロンビア出身の指揮者。
会場はいつもと比べ老若問わず女性の比率が高く驚いたが、五嶋龍目当てだとすぐに察しがついた。
オーケストラは14型2管編成は終始一貫しており、チェロが上手前方に構える標準的な配置。
① バーンスタイン : キャンディード序曲
この演奏については、事前にアナウンスがなかった。
以前、シモノフ指揮モスクワ・フィルの際も同様のことがあったが、こういうデタラメなことをするのはフェスティバルホールだけ。
肝心の演奏のほうはといえば、演奏会の幕開けに相応しく華やかでエネルギッシュ。
指揮者は、てきぱきとした棒さばきで、ぐいとオーケストラを引っ張る。
トランペットと打楽器を主とした出だしの音楽が痛快に決まり、格好いい。
木管のおどけたようなモチーフのあとテンポを落とし、最初はヴィオラのみで次いで弦楽合奏へとスケールを拡大する。
どこか諧謔的にも聞こえる主題とは対照的に、悠然としたこの音楽が特に素晴らしかった。
② チャイコフスキー : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
五嶋龍の演奏を聴くのも初めてなら、その姿を見るのも初めて。
両端楽章は五嶋龍を聴く。
中間楽章はチャイコフスキーを聴くといった感じ。
第1楽章冒頭のフレーズで美麗な音を奏で、聴衆の心を掴む。
それ以降は止まりそうなほどゆっくりとしたテンポで進むなか、五嶋節とも呼べそうな丁寧なアーティキュレーションが頻出する。
弱音はこれみよがしで、そこでは必ず眉を八の字にして、目を細める。
ボルテージが上がると足を踏み鳴らし、ステージから落っこちそうなほど迫り出す。
ピッツィカートの前には小休止。ドヤ顔のおまけを付けて弦を弾く。
それらの所作に接すると、まるでコテコテのお好み焼きを食している気持ちになる。
ただ、これだけ余裕を持って楽しげにこの協奏曲を弾くソリストを見たことがないのも事実。
独奏ヴァイオリンが主体のパートでは、リテヌートなど大胆なアゴーギクで演奏を謳歌する反面、
協奏パートでは、ある程度オーケストラに歩み寄りを見せる。この辺もきっちりと音をコントロールしているように見受けられる。
第2楽章は前楽章から一転、起伏もボリュームも控えめで木管の響きが引き立つ。
独奏ヴァイオリンによる叙情的フレーズは滔々と流れ、木管のなかでは特にフルートの伸びやかな音色が印象的。
第3楽章では、アクの強い独奏ヴァイオリンに感化されたのか、オーボエ・ソロがえらく抑揚をつけて歌っていたのが面白かった。
独奏ヴァイオリンは、この楽章のテクニカルなパッセージの演奏一つとっても安定感は抜群。
音程も第1楽章のハーモニクスのひとつが怪しく響いたくらいで、それ以外はほとんど非の打ち所のないパフォーマンス。音も綺麗。
エンターテインメント的要素を含んだ興味深いパフォーマンスではあったが、エレガントではなかった。
ツィマーマンがショパンのピアノ協奏曲を弾き振りしたCDを、最初に耳にしたときの印象に少しだけ似ている。(こちらはエンターテインメント性はないが)
③ ブラームス : 交響曲第1番 ハ短調
冒頭は1曲目のキャンディード序曲の演奏から予想できるテンポで、颯爽と足早に駆け抜ける。
主部がAllegroということを考えると、序奏はこれくらいの速度が無理のない形だろうか。
ティンパニと併せてコントラバスを押し出し、低音部の力感が強調される。
主部では、トランペットやホルンを「ババババーン」とエッジを効かせ勢いよく吹かせたり、各楽器の強弱がはっきりしている。
序奏や再現部で聴かれた大胆なディミヌエンドなど、はっとする表現もある。
呈示部を反復してはいるが、あっという間に終結部を迎える第1楽章。
何処からともなく音が湧き起こる第2楽章の冒頭。
前楽章ではどちらかと言えばソリッドだったが、ここでは響きを溶け合わせたソフトな演奏で一丸となる。
各楽器の距離が縮まり、管弦楽から室内楽へと装いを変える。
前半ではオーボエ、後半はコンマスのヴァイオリンが、それぞれ麗しい響きでソロを披露。
特にヴァイオリン・ソロは、終結部の高音も音程が安定していて素晴らしかった。
また、伴奏のクラリネットもさり気無くその音色を響かせ、綺麗なハーモニーを形成していた。
第3楽章は前楽章の雰囲気を引き継いで、穏やかに主部が演奏される。
中間部では、フルートからはじまる「タタター」の執拗な動機をさらに印象づけるように、金管が乾いた音で大きく吹き鳴らす。
最終楽章序奏の弦のピッツィカートは濃密。
最初非常にゆっくりと音が2、3滴り落ちたかと思えば、しばらくすると雨後の筍のように零れだす。
2本のホルンが補完しながらアルペン・ホルンの旋律を朗々と、2本のフルートがその旋律を受け継ぎ、清らかな音色を控えめに響かせる。
ホルンは雨上がりの雄大な山々を、フルートはそこにこだまする鳥の歌声をイメージさせる。
3本のトロンボーンによるコーラル風のフレーズが粛然と響く。
主部にうつると快速調に変化し、「ジャン、ジャン、ジャン、ジャン」と歯切れがよい。
しかし、(指揮者の指示なのだろうが、)女性フルート奏者の美観を損ねる仰々しい抑揚には、ちょっと辟易する。
最後は弦が刻むリズムで勢いを強め、猛然とフィナーレへ突き進む。
暗から明といった類の劇的な要素はさほど感じられず、溌剌とした印象のブラ1。
オロスコ=エストラーダは指揮台の上を精力的に動きまわり、推進力のある指揮でオーケストラから力感みなぎる音を引きだしていた。
おかげで終演後、指揮台から降りる際に足が縺れそうになっていた。
hr交響楽団の演奏からは重厚な感じは受けなかったが、力強く小気味好かった。