1月25日(土)。
前日の京響定期演奏会に続いて連日の演奏会。
ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団の来日公演。
今年初、そして久しぶりのザ・シンフォニーホール、午後2時開演。


前回の来日公演で聴いた同コンビによるチャイコフスキー交響曲第5番は、記憶に残る最高級の演奏でした。
今回は、オールチャイコフスキープログラムで、交響曲は第4番です。
プログラムはこちら。
① チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調(Vn:庄司紗矢香)
② チャイコフスキー/交響曲第4番へ短調
ヴァイオリン:庄司紗矢香
演奏:サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
指揮:ユーリ・テミルカーノフ
① チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調(Vn:庄司紗矢香)
ソリストの庄司紗矢香さんは、昨年2月のネゼ=セガン指揮ロッテルダム・フィルの来日公演以来です。
余談ですが、彼女が使用しているストラディヴァリウス「レカミエ」は、今回の来日公演のスポンサーである上野製薬(株)が貸与しています。
すでに椅子に腰掛けスタンバイしている楽団員。彼らと同じくらいの高さの彼女が歩いて登場。

第1楽章冒頭、カデンツァ風の独奏ヴァイオリンにはやや硬さが感じられ、高音にほんの少し棘がありましたが、
曲が進むにつれ、尖った質感にしなやかさが加わり、瑞々しい風合いの音へと変化しました。
オーケストラが最強奏で入る第1主題は力強さはもちろんのこと、麗しさと眼前で花が舞うような美々しさを漂わせ絢爛華麗。
カデンツァでは、ピッツィカートに弱さを感じるが、重音奏法とグリッサンドは実に素晴らしい。
全曲を通じ、オーケストラが絶妙に加減され、前面に出ることろは壮麗に、そうでない箇所では静謐に独奏ヴァイオリンをサポート。抜群の安定感。
第2楽章は珠玉の演奏。
独奏ヴァイオリンは情感たっぷりに歌い、サンクトペテルブルク・フィルの管楽器の極上の響きとともに憂愁の世界を描きだしています。
しみじみとその感傷的な音楽に没入。
前楽章からアタッカで続く最終楽章は、一糸乱れぬオーケストラの強奏でなだれ込む。
独奏ヴァイオリンは技巧的で速いパッセージも、パガニーニのカプリースを思わせる切れ味で疾駆。
音響の良さも手伝って、力感や繊細なニュアンスもしっかり届きます。
中間部において綺麗な音色で民謡調の旋律を奏でる管楽器を始め、オーケストラの伴奏が見事で、
そうしたオーケストラの充実に導かれるように独奏ヴァイオリンも豊かに呼応。
最後は、演奏のヴォルテージも最高潮に達し、大団円を迎えました。
「テミルカーノフ 75歳記念公演」にレーピンやヤンソンスの各氏らとともに招かれた庄司紗矢香さん。
今回も演奏中、微笑みながらアイコンタクトをとるなど、随所で指揮者との強い信頼関係と相性の良さを窺わせる素晴らしい演奏でした。
ソリストアンコールは、技巧満載のクライスラーの難曲を見事に弾き切っていました。
4月には、いずみホールで開催される彼女のリサイタルに行く予定です。
コンチェルトとは異なるヴァイオリンの世界を目撃したいと思います。
② チャイコフスキー/交響曲第4番へ短調
この日、テミルカーノフ氏は風邪をひいていたのか、鼻の調子が良くないようでした。
(ヴァイオリン協奏曲のときに、くしゃみをしていたような…)
しかし、それはパフォーマンスに影響を与えるものではありませんでした。
オーケストラは対向配置で、ステージに向かって右後方に金管セクションが並ぶ。
テンポは概ね標準的。特別斬新なこともなく正統派のアプローチ。
スケール感たっぷりに金管楽器がファンファーレを吹き鳴らして第1楽章が始まりを告げる。
サンクトペテルブルク・フィルの特長でもある鮮明な輪郭の音による壮大な響きです。
動静が明確で劇的。
主題間をつなぐ経過部がゆったりと丁寧に演奏されていたのが印象的でした。
金管楽器が咆哮する中、弦楽器は吹きつける風雨のように激しく、ティンパニは雷鳴のようにホールを揺さぶる。息詰まる緊迫感。
ド迫力で圧巻のオーケストラサウンド。
第2主題の木管楽器の名人芸に感嘆。
技術水準の高い各セクションが、均整のとれたハーモニーを形成する。
全体の見通しが良好で”めちゃくちゃ上手い”。
楽器群の手綱をしっかり握り、意図する音楽を現出する指揮者テミルカーノフの冴えわたる手腕。
第2楽章は、珠玉の演奏第2弾。
冒頭の主題をメランコリックに歌いあげるオーボエも、終盤の寂寥感漂うファゴットも、弦楽器の対旋律をなぞるフルートも極上の響き。
終演後の帰路でも、この楽章の旋律と次楽章のピッツィカートが頭の中でループするほどです。
それを受け継ぎ、ほの暗く響くチェロや優美なヴァイオリンが、またそれぞれ豊かな表現力を有しています。
続く中間部では一転、対向配置の弦楽器による流麗なハーモニーが空間的な広がりとともにあらわれます。胸を打つ名演。
弦楽器のピッツィカートによるアンサンブルが耳に心地よい第3楽章。
その第1主題がアレグロで軽快に駆けぬけます。
それはやがて木管楽器による中間部を経て金管楽器へと受け継がれます。
終盤、各セクションが交錯しながら曲が進行しますが、
弦楽器→管楽器→金管楽器という流れと棲み分けが、楽器の配置により視覚的に識別できて、面白かったです。
最終楽章は、冒頭から金管楽器のファンファーレがひと際明るく華やな彩色。
さまざまな楽器が奏でるロシア民謡『白樺は野に立てり』のフレーズも印象的ですが、
そのあと、突如として闖入してくる第1楽章冒頭のファンファーレが、打楽器の強烈な打撃によって倒され、低弦楽器を中心に静寂の中で暗く葬送のように響く一連の流れが、
ベートーヴェン第5交響曲の「苦悩を乗り越え勝利する」形式を強く印象づけるような演奏でした。
オーケストラは音楽が高揚し、次第に熱狂に転じる中においても、
その鉄壁のアンサンブルを決して乱すことなく、再び最高級の演奏を披露してくれました。
アンコールは、マエストロの想いが込められた(妄想)、エルガーの「愛の挨拶」。
「私のように風邪をひかないように」と温かなプレゼントです。

この公演の前日。
東京の文京シビックホールの公演プログラムは、マーラー交響曲第2番ハ短調「復活」でした。どんな演奏だったか興味津々です。
次回は、チャイコフスキー以外のプログラムも聴きたいという願望が沸々と湧いてきました。