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中絶、うつ病、そして明日への希望

望まなかった中絶、それを思い出して苦しむ日々。同じ体験をした女性たちにとって、少しでも救いになるとともに、一人でも多くの女性が同じ苦しみを味わうことのないように願います。

2009年12月24日

頭痛がひどく、会社を休む。
寝ながら、布団の中をのぞき込み、
自分の下腹部に話しかけてみたりする。
「寒いね…大丈夫?」

見た目には全くわからないけど
お腹は張っているし、悪阻はひどい。
だから、「ここにいるよ」って赤ちゃんが言ってるみたいで
ついつい、話しかけてしまっていた。

そんなんだから、
昨日は手術の予約を入れてしまったけど、
やっぱり…踏ん切りがつかないでいた。
手術をする、という実感もない。
どうしようどうしよう。堂々めぐりの思考。


日中は寝て過ごし、夕方になって彼に電話する。


「今日は忘年会があるから、終わったら電話する」


忘年会…そーですか。
よく考えたら、今日はクリスマスイブだし、もうすぐ年末。
17日に妊娠を知ってから、私の頭の中はそればっかりだったけど
1年で、いちばん楽しい時期。

それなのに、私はというと、悪阻と体調不良とで
全部の飲み会を断っていた。
そもそも、人と会って楽しく過ごす気分ではない。


彼にだって、断ってほしい。
飲みに行く時間があるなら、そばにいてほしい。
あなたの希望通りに諦めるんだから、
それくらいしてくれたって、いいじゃない。


形にはなっていないけど、確実に生きているこの子と
あと数日、できるだけ一緒にいようという気持には、ならないのだろうか。



男性に実感が湧かないものだと聞くから、
仕方ないのかもしれないけど、
私ばっかり、苦労しているような気分になって
みじめな気分になる。


31年間、いろんなクリスマスイブがあったけど、
こんなに悲しく暗く、そしてやるせない気分のイブは、初めてだ。



聖なる夜と、命を奪おうとする黒い感情は
とても相性の悪い組み合わせのような気がして
私はとても、居心地が悪かった。


2009年12月23日。

彼は中絶を望んでいるが、
私は何を望んでいるのだろう?

冷静に考えるべきだが
悪阻と体調不良で
頭がまともに働かない。


割れるような頭痛を我慢して、予約していた産婦人科へ行く。
血液検査をしたあと、個室で医師が私に尋ねた。


「で、、今後の方針は決まりましたか?」

「…はい、今回は諦めることにしました…」


とうとう、超えてはいけない壁を超えてしまった。

でももう、何でもいいから決めたかった。
結論がほしかった。
宙ぶらりんでグルグル迷うことに疲弊し、
彼の無言のプレッシャーにおびえていた。
本当に、疲れていた。


その日、中絶手術の予約を入れた。


「30日から1月3日までは病院がお休みですので
今年だと29日までになります。何日にしますか?」


美容院の予約みたいに、あっさりと聞かれる。

年始でもよかったけど、4日からは仕事だ。
それに、何日くらいで回復するのか心配だった。
会社は26日から冬休み。その間に体を休めることができる。


「29日で、お願いします」


年内でいちばん遠い日を選ぶ。
私は勝手だ。
自分から、自分の都合で手放すくせに
少しでも、長く一緒にいたいと思ってる。


そうすることで、罪が少しだけ、軽くなるとでも思ったのだろうか。
そんなわけ、絶対にないのに。


別の個室に呼ばれ、手術当日の注意事項などを聞く。
目の前には、20代半ばの事務員と思われる女性。
彼女は、毎日こういう説明を淡々としているのだろうか。
その表情は、能面のように動かない。


手術は、完全麻酔(全身麻酔)で行うらしい。

24時間前から飲まず食わずでいること。
当日は、ノーメイクで来ること。
中絶同意書を完全に埋めて、持って来ること。
父親と母親の筆跡が明らかに同じの場合、手術は受けられないらしい。
手術費用を全額持って来ること。分納不可。
当日は、夜用のナプキンを持って来ること。


…多すぎる。

とりあえず、当日までに同意書を書いてもらわなくてはいけない。
私はまた、彼に電話した。
この期に及んでも、彼の声を聞けると思うと
ちょっと嬉しくなってしまう自分が、
本当に情けない。


天国のあなたへ。
あの日、手術の予約をしなければ
運命は別の方へ動いたのかな?

自分のことばっかり考えてしまう母親を
あなたはお腹の中で
どう思っていたんだろう。
2009年12月23日、祝日。
1日中家にいて、ベッドの中で考えていた。

これからを思うと、本当にこわかった。
中絶したら、体への負担は?
また妊娠できるのかな?
どれくらい、痛いんだろう?

また、そんな勝手な思いばかりがよぎる。


彼に電話をする。
もう彼の心は決まっているようで、声から迷いは感じられない。


「今回は諦めよう。お腹の子には本当に申し訳ないけど。
この状態じゃ、まともに育てられないでしょ」


「あなたが離婚するまではひとりで育てるっていうのはだめなの?」

「……にゃみこだって、やりたこと、できなくなるんだよ。
俺だって、自分の子供もまともに面倒見れてない状況だし…」



彼は妻子と別居している。
週に1度くらいしか帰っていない。
彼の長男は、まだ5歳なのに情緒不安定だそうだ。


「にゃみこと子供に、そんな悲しい思いをさせられない。
だから今回は諦めた方がいいと思う。
必ず、必ず次回は産んでいいから」



ただでさえ、悪阻で不安定になってて、
予想外の妊娠で、困惑しているところに、

ここまで必死に反対されて、
それでも産む!とは言えなかった。

「…わかった。。。」

そんなに私との子どもが要らないんだね…。


電話を切った。

下腹部に手を当てる。
この子と一緒にいられるのは、あと数日になるのかな。
何だかもう、無性に泣けてきて、部屋でわんわん泣いた。


天国のあなたへ。
あなたのお父さんは、
あなたのことを嫌いだったわけじゃないと思う。
ただ、自信がなかったんだろう。

だからこそ、
もっと私がしっかりと
あなたを守るべきだった。


でもあの時は、私にはそれがわからなかった。
私も、自信がなかったんだ。

私はこれから、どうなるんだろう?
本当に、私は中絶しなければならないのだろうか。
産んで育てる道は、ないのだろうか。
そればっかりが、頭をよぎる。


2009年12月22日。


朝から、胃が気持ち悪い。

常に胃酸がガンガンに出ているような症状。
1時間前にお腹いっぱいにご飯を食べたのに
24時間以上何も食べていないような、
空腹感と胃酸がじゅわーっと広がる感じ。


悪阻がやってきたのだ。


子どもを持っている友人からは

「つわりだからって、酸っぱいものが食べたくなるってわけじゃないよ~」

なんてよく聞いたけど、
胃が気持ち悪いので、実際に酸っぱいものがほしくなる。

私は、

・CCレモン
・濃いめのローズヒップティ


こればっかり飲んでいた。
炭酸の中でも、CCレモンが断トツにおいしく感じる。


そして、通勤の電車で立っているのが、つらい。
お腹が張っているけど、
見た目にはまったく出てないし誰にも妊婦とはわからない。


たくさんの初期妊婦さんが、
こうした試練?をくぐり抜けてきたんだなあ。
私の母も、こんなに大変な思いをして、私と妹を産んだんだなぁ。


命を守るって、すごいことだ。
妊娠して、31歳にして、ようやく気付いた私は
本当にバカだ。
でも知ることができて、よかったとも思う。


電車の中で思う。

ここにいる全員が、それぞれの母に守られて
世に出てきたんだ。


本当に当たり前のことすぎて、考えたこともなかったけど
自分が妊娠して、それにようやく気付く。


それなのに私は、命を捨てる選択肢を、まだ捨てきれずにいる。


私は、未婚の母をやっていけるのか?
東京を離れて、実家に帰らなくちゃいけなくなるのかな?
仕事も辞めなくちゃいけないんだろうな。
産んだら、海外旅行にもしばらく行けないな。
合コンにも行けなくなっちゃうな(←おい)。
そして、彼ともうデートもできないな。



自分のしたいことばかりが、浮かんでくる。
産んだら出来なくなることが、たくさんあって
お腹の子が、私の可能性を邪魔しているような気さえしてくる。



天国にいるあなたへ。
あの日、私がもう少し しっかりしていたら
いま、あなたはまだ ここにいたのかな。



下腹部に目をやる。
今はぺたんこのお腹は、私が選択した結果だ。
私はまだ、それを完全に受け入れられずにいた。
NHK総合 火曜に放送しているドラマ。
録画した第1話を観た。

以下、少しだけネタばれありますので、知りたくない方はスル―してください。

主人公の希和子は、会社の男性と不倫して、その男性の子を妊娠する。
男性は、今はタイミングが悪すぎる、と希和子を説得。
「いま妻にばれたら、慰謝料とかでわめくに決まってる」

希和子は泣く泣く中絶する。
そして1年後、きわこは男性とその妻の間に生まれた女の子を誘拐し、逃げ続ける…

というストーリ。その後、その女の子も不倫で悩む…という話のようだ
(まだ1話しか見てないんで、コアストーリでないかも…)
原作は角田光代。脚本が浅野妙子。期待できる組み合わせ。

1話の中で、こんなシーンがある。
中絶経験のある女性は、共感できるかもしれない、悲しい場面。

*****************************
希和子が中絶して、病院から出てくる。

「ごめんね薫。お父さんを失うのが恐かった。お母さんはまだ、子供でした。自分の方が可愛かった。」
*****************************
(薫は、主人公があらかじめ子供につけると決めていた名前)


そうなんだと思った。
そうだった。
私もそうだった。


子供を産むなんて言ったら、嫌われるんじゃないか。
彼は私から離れていくんじゃないか。


だったら、生まない方がいい。
だったら、堕ろしたっていい。



なんてお粗末な思考回路。
でも、許してください。


そのときは目の前の愛(らしきもの)を手放す勇気が出せなかった。
明日には飽きてしまうだろうおもちゃに
これでもかと執着する3歳児のように。

これを手放してしまったら、
もう人を愛することはできないと思っていた。

女の弱さの、最たる部分。
私も、弱いんだ。


ひとことだけ。
読んでいる女性のみなさんへ。

もし、今あなたがきちんと避妊していなくて
産む決意が100パーセントでないなら

私のような重い荷物を背負うことのないように
避妊してほしいと願っています。


あなたの彼は、あなたが妊娠したときに
喜んでくれるひとですか?



愛を感じる方法はいろいろあれど、
それを想像することも
そのひとつかもしれません。