suspiria  この色、この光。今までに観たことがない。映画全編に渡って退いては寄せるように響き続けるシンプルなつくりのテーマ曲も、結局最後まで飽きることがなかった。遅ればせながら、やや甚大な衝撃を受けてしまった。
 ダリオ・アルジェントという名に“ホラー映画の原点”のようなイメージだけを持って今まで食わず嫌いできたのだけれど、根本的に違っていた。というのもあたしが持ってきたホラー映画のイメージというのはどうやら“サスペリア”よりも後発の“死霊のはらわた”、“ジェイソン”といったハリウッドの作品群により植え付けられたものだったらしい。 “サスペリア”は世界志向(十分なマーケットリサーチ/シンプルな構成/アメリカ人女優の適用etc.)の制作背景をもつとはいえ、イタリアンフィルムの匂いがとても強かった。

 魔女の存在が重要なモティーフとして選択されている点も興味深い。少しネットを捜したら、なんと舞台となった舞踊学校のモデルはシュタイナー・シューレであったらしい。[当該HPはこちら ] ルドルフ・シュタイナーの思想活動は確かにある種の保守的な人々にとってこのように怪しくも映るのだろう。もっともな話である。
 魔女狩りは集団における強迫神経症的な徴候として語られる一方で、欧州と欧州から輸出された北米でしか見られない現象という。(by中井久夫 『徴候・記憶・外傷』 ) それだけにこれらの国の人にとってこのモティーフの使用は、魂の底からの恐怖心を呼び起こす力があるわけで、理にかなった選択とは言えそうだ。

 恐いのはきらいだ。“死霊のはらわた”も“ジェイソン”も一人で観たことはまったくない。にもかかわらずこういう内容だと知らずに今回“サスペリア”に手を出したのは、やはり精神的に参ってるせいなんだろう。あまり沈み込んでいるときに観て良い効果があるとも思えない。けれど引かれてしまう。どうしようもなく。自虐的なのではない、陥っているこの苦しさが何なのか、少しでも納得したい。閉じた社会のうちにこもり稼いだ金を生活に費やして、ただいるだけでは、つらすぎる。


"Suspiria " by Dario Argento / Jessica Harper, Joan Bennett, Stefania Casini, Alida Valli / Goblin [music] / 99min / Italy / 1977 ☆☆☆☆