おはようございます。
本日の更新はあたしの妄想話です。
過去話、入社3年目の春の話の続きで、最初の部分は黒沢の回想です。
が、途中から、現在の黒沢と安達が出てきます。
まだ正月です。
あたしの妄想話「黒沢の小さな小さな夢 その2」の後の話になります。
あくまでも、あたしの勝手な妄想ですので、いろいろとご不満があるでしょうが、ご了承くださいませね。
(その2からつづく)
そういえば、狛犬か玉を咥えているのって、確か…。
「言葉を発する時、必ず正しく世のため人のためになることだけを話す」という意味がある、っていうのを聞いたことがあったなぁ…。
黒沢は、上着のポケットに入れたさっきの白い石に触れながら、もしかしたら、このハートの石は阿形の狛犬からの自分への言葉なのかもしれない、と思い始めた。
あの阿形の狛犬が自分で、吽形の狛犬が安達なら、と思いたい。ということは、そこにあった小さな白いハートの石は。
いや、それは何でも飛躍し過ぎだよな、と、黒沢は思い直す。
でも、叶うといいな、さっきの願い事。
黒沢は後ろを振り返り神社に向かって一礼すると、また歩き出す。
しばらく歩くとやたらと急な坂道が見えて来た。
これは歩くのもかなりキツそうだ。自転車だったら絶対に上れない勾配だな、と思っていたら、高校生が自転車を引いて駆け上がって行く。その後、何人もの高校生が同じように自転車を引きながら駆け上がって行くのとすれ違った。
黒沢はゆっくりと坂を下りながら、ここはかなり急坂だけど、安達と手を繋いで一緒に上ってみたいな、と思う。
もし、安達が躓いたりしたら全力で支えよう。
黒沢は、触れたことのない安達の手の感触を想像する。
安達の手、温かいのかな冷たいのかな。柔らかいのかな筋張っているのかな。触れてみたいと思いながら、実際に触れて嫌われるのはイヤだし。
急坂を下りながらも考えるのは安達のことばかり。この街のどこにいても、考えるのはやはり安達のことばかり。
安達の住む街を歩いてみて、自分の安達への想いがかなり重症であることがわかる。
この街で安達と同じ空気を吸っていると思うだけで胸が熱くなってくるし。
このままだと鼓動が速くなり過ぎて、心臓が持たない。
安達の住むこの街を歩いたという思い出を胸に、黒沢は駅に向かった。
探訪はおしまい、現実社会に戻ろう。
黒沢は安達の住む街に別れを告げると、自分の住む街へと戻った。
「そういえば、黒沢」
黒沢が持ち込んだ炬燵に寝転んだ安達が、黒沢を上目遣いで見上げてくる。
「ん?」
「前に、俺が具合悪くなった時、うちまで送ってくれたことあったよな」
「あぁ、うちのアネキが無理矢理タクシーに乗り込んで来た時だな」
「そう。で、あの時、俺、身体めっちゃだるくて、タクシーに乗った時、黒沢に何も言わなかったけど、黒沢、タクシーの運転手さんに行き先フツーに説明してたよな」
安達、どうして今頃。あーっ、そんなこと思い出さなくていいから。
しかし、とりあえず平静を装い、聞き返す。
「そ、そうだっけ?」
「うん、してた。黒沢、ここ来たのってあの時が初めてだったはずなのにすげぇな、って」
いや、本当は初めてじゃないんだけどね。
だけど、そう言ったら安達がイヤがりそうだから言わないけど。
でも、安達、そんなこと憶えていたなんて。
っていうか、待てよ、これってヤバい展開なんだろうか?安達の上目遣いが凄く可愛いと思いながらも、黒沢は少し焦り始めた。
「俺、あのタクシーの中で、ぼんやりと『黒沢ってやっぱすげぇなぁ』って思ったんだよな」
えっ⁈安達、褒めてくれるの?変だ、って思わないの?
「黒沢、ホントすげぇよ。頭の中に完璧な地図入ってんじゃねーの?」
はぁぁ…助かった。とりあえずバレでない。あの時、安達が熱っぽくてよかった。きっと熱で頭が回ってなかったんだな。
ん?でも、この外し方、誰かに似てる気がする…。
って、そっか!あいつだ!六角だ‼︎六角の外し方とそっくりなんだ。
六角のヤツ、安達に妙に懐いてるから、安達が変なふうに六角の影響受けてしまってるんじゃないのか?
あ、でも…それを言ったら、自分が安達の家の付近に来たことがあることをバラすことになってしまうのか。マズい、それは絶対にマズい。
そんなことを黒沢が思っていると、不意に安達が身体を起こし、黒沢の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「い、いや、何でも」
「あのさ…お願いがあるんだけど」
「何?」
「一緒に行って欲しいところがあるんだ」
「安達が行きたいところならどこへでも行くよ」
「ホント?」
「うん。で、安達はどこに行きたいの?」
「神社」
「神社?」
「近くの神社なんだけど、黒沢と初詣に行きたいんだ」
「安達…」
あーっ、もうホントに困る。何でこんなに可愛いこと言うんだろう。可愛過ぎて可愛過ぎて、好きになり過ぎて困るってば。
それに安達と初詣だなんて、自分にとって最高のお正月じゃないか。
「行ってくれる?」
「勿論」
黒沢は満面の笑みで答えたが、ふと疑問が湧く。
ん?あれ?…もしかして、その神社って…。
(その4につづく)