学生も楽しくない。私も楽しくない。こんな授業、もう嫌。
この仕事を始めた頃、何日もかけて苦労して作った授業案の通り、授業を進めることに必死でした。もちろん、学生の反応は、授業案で予想していたものと違う場合のほうが圧倒的に多いですよね。でも、その日の“私のゴール”に辿り着くことに必死で、学生の声を聞くどころか、「そうですね。じゃあ次は…」と聞き流していました。
こんな状況が続くと、学生は「ああ、この先生に話してもムダだな」と、話さなくなり、さらに、こちらの話も聞かなくなります。そう、ただ、授業時間が過ぎるのをじっと待つだけになってしまいます。
そして私も、「こんなに一生懸命なのに、反応が鈍いって、どういうこと?!」となり、教室に行くのが辛くなってしまいました。
1対1の個人授業で、気づいたこと。
1対1の個人授業では、このような気持ちになることはありませんでした。
「どうしてだろう?」と自分自身を振り返ってみると、個人授業では、学生中心で考えていることに気がつきました。
目の前の学生がしたいことや困っていることに集中できますし、進度の制約もないので、学生のペースに合わせることもできますから、焦らず柔軟に対応することができます。そうして何回か授業を続けると、学生も私を信用してくれて、安心して、色々と話してくれるようになります。そして、私もその授業時間が楽しみになりますし、学生も楽しそうに授業時間を過ごしてくれます。
学生中心、つまり「学生の声をよく聞き、学生がやりたい方法、ペースで進める」、当たり前のことなんですが、色々な事情で忘れがちなことに、改めて気がつきました。
授業のことは、学生に任せてみよう
1対1の個人授業と、クラス授業では、もちろん色々な違いがありますから、全く同じように考えるのは難しいです。決められた時間、決められた範囲がありますから。でも、小さなことならできます。
そして、任せるといっても、自由放任にするわけではなく、小さな意思決定をしてもらうように工夫するのがいいと思います。
最近、私がクラスで試したことをいくつか紹介します。
課題を自分で決める
家でも、日本語を読んだり、聞いたりしてもらいたいので、クラスのWebサイトに毎週リストを作っています(もちろん、リスト以外のものも可にしています)。学生は、月曜日に今週は「読む・聞く」のどちらをするか、いくつするかを自分で決めて、金曜日に課題をクリアしたかどうかを報告(内容や、新しく覚えた表現など)します。
“新しく覚えた言葉”には、
・軽微な不具合の修正を行っています
・わちゃわちゃ
・歌詞が耳に残る中毒ソング
・地毛の色
・便宜を図る
等々、教科書内では、あまり取り上げることがないものに触れることができているようです。日本が好き、日本語に興味がある人ばかりなので、普段からいろいろな言葉を耳にしていますが、報告を書くことが思い出すきっかけになっているようです。
授業中にするプリントのレベルを自分で選ぶ
レベル差があるクラスなので、自分で選んでもらうようにしています。難易度が高い方を選ぶ人が多いですが、自分で選んだので、最後まで集中が途切れることなく取り組んでいます。答え合わせや、わからなかった部分のフォローも、学生達が自分たちで進めています。学生たちで解決できなかった時だけ、私に質問しに来ます。
学生がお互いに確認する
授業中にしたプリントや文作りなどは、近くの人と交換して確認します。
教師からより、クラスメートからのほうが、アドバイスを受け入れやすいようです。
たしかに、小さな疑問も仲良しのクラスメートなら聞きやすいですよね。アドバイスする側も、話しながら頭が整理できるようです。
学生がクイズを作る
2,3問モデルを提示したあとに、学生自ら、クイズを作ります。
先日は、“V- てもいいです”を使って、嘘・本当クイズを作りました。
・串焼きのタレは二度漬けしてもいいです。
・たこ焼きにタコが入っていなくてもいいです。
・日本の街は気軽に写真を撮ってもいいです。
・関東で、「アホ」を使ってもいいです。
・男性のみで、プリクラを撮ってもいいです。
など、こちらが想定した以上の内容が出てきて、文型の練習だけでなく日本のことも知る機会になりました。
アンケート結果をみんなで見る
先日、教科書が1冊終わったので、学生にアンケートを取りました。
(低い・高いのどちらかに振れるような選択肢にしました。)
この結果を全員で見ながら、「話す・書くが苦手と感じている人が多いけど、どうしてだろう?どんな練習方法がある?」など、話し合いました。すると、クラスでも話すのが得意な人から、「やっぱり日本人とたくさん会話するのが一番いい」「私は、〇〇というアプリを使って、毎日、日本人と会話してるよ」という話が出てきて、興味がある学生は、その場でアプリをダウンロードすることができました。
一歩踏み出してみよう
最初、私は学生に任せるのに、とても勇気がいりました。「わたしがしてあげないと、進まないのでは?うまくいかないのでは?」と。でも、実際に、彼らを信じて、任せてみると、想像している以上の結果を得ることができました。
もし、以前の私と同じように「教室に行くのが辛い」感じている方がいらっしゃたら、子どものころから体に染みついている教師中心というビリーフを捨てて、できる範囲で学生に任せてみてはいかがでしょうか? 学生とも、新しい関係が築くことができ、教室に行くのが楽しみになるかもしれませんよ。