もうNYに戻ってきて10日以上過ぎてしまいましたが、コロンバスデーの3連休を利用してポートランドに旅行してきた話の続きです。

 

ポートランド滞在中は旦那Dの親友かつ東京駐在時代の同僚であるSさんのお宅にお世話になりました。そしてコロンバスデー当日はポートランド中心地から車で1時間半の太平洋沿いの小さな町キャノンビーチにデイトリップしました。ポートランドは、名前に「ポート」と付くので海沿いにあるような気がしますが、他の西海岸の都市例えばシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ等とは違って水辺へのアクセスはありません。街の中心を川は流れていますが、太平洋からはかなり内陸にあります。Sさんは、Dと私の滞在中ぜひキャノンビーチに一緒に来てもらいたいということで、我々もとても楽しみにしていました。

 

 

朝早くSさん宅のあるポートランド郊外ビーバートンを出てしばらく平地を走り、最後に山越えして急に太平洋が眼前に広がりました。そこが目的地キャノンビーチです。電車は走っていなく、ポートランドからのバスも1日1−2本程度なので、交通の便がいいとは言えないですが、ポートランドの富裕層が週末を過ごすセカンドハウスを持っていたり、貸別荘が並んでいたりする場所です。ダウンタウンはこじんまりとしつつ、小洒落た別荘地の雰囲気が漂っていました。ハワイが好きな人には、カイルアみたいというと分かるかもしれません。

 

SさんがDと私をここに連れてきたかった理由が、とても好きな場所なので案内したかったのと、ここに別荘を購入しようとしているので、我々の意見を聞きたいということでした。シングル女性であるSさんにとって、男の視点で物件選びや購入の際の留意点などを探っておきたいようで、そうするとDはかなり頼りになる存在です。日本人の私の意見はあまり頼りにならないと思いますが。

 

賑やかなキャノンビーチのメインストリート

 

この辺りの名物クラムチャウダーはどのお店も出してる

 

Sさんは、あと2−3年で仕事を完全にリタイアし、引退後はここキャノンビーチへ移住を考えているそうです。今のうちにキャノンビーチの家を購入して週末を過ごしつつ、いづれはこちらの本移住をするという計画とのことでした。キャノンビーチを選んだのは、大好きなサーフィンを毎日できるからだということで、そのアクティブさに脱帽です。SさんはDと同年代、50歳くらいだと思いますが、サーフィンが得意だったとは初耳でした。

 

でも、頭のいいSさんらしく、いきなり仕事辞めて引っ越してきてゼロからスタートするよりは、今のうちから過ごしずつこちらで過ごして人間関係を作っておき、いざ引っ越してくるときには既にコミュニティーに居場所があるようにしておきたいそうでした。

 

天気が変わりやすい太平洋沿岸

 

キャノンビーチのメインストリートのダイナーでランチをしつつSさんの今後のプランに耳を傾けていましたが、Sさんの人生観にとても刺激を受けました。仕事は人生の全てではないし、会社でこれ以上出世なども考えていない。そもそも残りの人生は誰かの指図で働くような生活はしたくないそうです。Dは都会とは離れてるし寂しくないの?と彼女に聞いていましたが、Sさんは、キャノンビーチでの生活は決して豪奢ではないだろうけれど、大好きな海の近くで心穏やかな人生を送っていける自信はあると言っていたのが印象的でした。このまま一生老後を過ごすと決めているわけでもなく、とりあえず体が元気なうちはここに住んで、今まで国際バンカーとして働き詰めだった人生を取り戻すと言う心意気のようです。もしかしたら同じような境遇の殿方との出会いも?ともちょっぴり期待してるような話をしてましたが、いくつになっても恋愛マーケットが存在するアメリカらしいです。

 

白人とアジア人のサーファーコンビ。顔も体もモデル並

 

翻って自分はどうだろうと考えると、あと数年で50歳になるけれど、仕事を引退など考える勇気がないです。今の仕事が大好きというわけでもないし、むしろ最近はやりがいすら感じていないのですが、かといって他に情熱を傾けて時間を費やす何かがあるわけでもありません。それなので仕事をやめて隠居したりしたら自分がどうなってしまうのか想像もつきません。それに、収入がなくなるのも恐ろしいです。旦那Dは、基本仕事が好きで、あまり深い意義とか深く考えない方なので、Sさんにそれほど共感するわけでもなく、せっせと物件選びのアドバイスしていて、私のようにSさんの境遇に自分を照らし合わせるなどとは考えていない模様でした。

 

そして、もう一つ、Sさんが言っていたことで印象的だったのは、ポートランドのダイバーシティな雰囲気がやや疲れてきた、という視点。東京、ロンドン、ドバイと海外経験があって、今もアフリカからの難民受け入れ施設でボランティアしている超グローバル人材なSさんの口からそんな言葉が出てくるとは思ってもいませんでした。Sさんは人種差別主義者ではないですし、日本人である私に最大限配慮して発言してましたが、Sさんの感覚にとても共感を覚えました。Sさんは裕福な白人の家で育ち、圧倒的に白人に囲まれた生活だったそうです。大学から多文化な環境になり、これまでずっと色々な人種、肌の色、さまざまな国籍、文化様式の人たちがいる場所で仕事をして生活してきたわけですが、歳とともにそういうのが疲れてくるのだと思います。それと、これはポートランドに限ったことではありませんが、アメリカの大都市の治安は悪化傾向で、改善していくような兆候は見られません。Sさんが住んでいる郊外は安全ですが、職場のあるポートランドのダウンタウンはかなり犯罪率が上がってきたそうです。

 

私も、マンハッタン住まいから、今住んでいる郊外に引っ越して、色々不便はあったものの精神的にとても落ち着きました。マンハッタンは人種のるつぼとして色々な文化的背景や価値観を持った人がいて、実際に生活すると刺激的ではありますが、疲れるのも確かです。疲れるのは、治安の問題や、多文化の中で埋もれないように自己主張しなければならないということも理由です。またダイバーシティな環境でポリコレが求められる状況、詳しくいうと、興味がないことにも興味があるそぶりをしてみたり、共感できないような価値観にも表面上共感した方がいい場面が結構あって、こういう生活は長くなると知らずのうちに精神的に疲弊が積み重なるものです。色々な言語や様々なアクセントの英語が聞こえてくるのも刺激的ですが、年取るにつれて必ずしもそうとは言えなくなりました。私とDが今住んでいる郊外の街は、白人かそれっぽく見える人びとが7割くらいでその他総勢3割という構成です。完璧に雑多なミックスよりも、白人優勢のこういう構成の方が個人的にはとても落ち着きます。3割の中には、東アジア系がやや目立つ感じで、インド系など南アジア、中近東系の方々も結構いますが、白人が作り上げた秩序に内包されつつその中で、自らのバックグランドを一緒にささやかに祝う感じです。年に1回くらい「ジャパニーズ・カルチャー・デー」とか「レバニーズ・ヘリテージ・ウィーク」などがあったりして、誰もがウエルカムな雰囲気を醸し出しています。

 

キャノンビーチを歩いていて気がついたのは、Dと私が住む街と同じような人種構成。きっとSさんにとっては、それはそれで自然で居心地がいいのだと思います。Sさんは「アメリカのごく一部しか見てない、ある意味排他的に聞こえてしまうかもしれないけど、この歳になってまで、アメリカ社会や世界の問題を自分の中に抱え込む必要もないのかなと、自分を赦したい」と言っていたので、私もとても救われた気分になりました。

 

帰りは北上してワシントン州境を経由して戻りました

 

と言うことで、コロンバスデーのポートランド訪問でSさんの引退後のプランと、真っ当にして正直な人生観を伺い、とても刺激になりました。次にSさんを訪問するときは、海辺におうちを購入しているのではと期待しつつ、ポートランドを後にしました。