ニューヨークのLGBTQ 映画祭「NewFest」が今年も開幕、15日から26日まで開催されています。

 

上映される作品数はドキュメンタリーから短編映画、海外作品まで130以上にのぼります。30年以上の歴史を持つこの映画祭、数々のLGBTの名作を輩出してきた老舗映画祭の一つで、私もニューヨークに来た年から毎年楽しみにしています。他のほとんどのアメリカの映画祭同様、今年はストリーミングと劇場公開のハイブリッド形式となっています。家で鑑賞するのも楽しいのですが、やはり、映画祭の醍醐味はコミュニティーを感じることです。特にLGBT映画祭の場合、さまざまなセクシュアル・オリエンテーション、さまざまな宗教や文化を垣根を超越した作品群が参加し、会場にいるだけでも、自分もコミュニティーの一員だと感じることができるので、コロナ明けの今年はマンハッタンの会場にも足を運びました。孤独を感じやすいゲイの都会暮らしの心の拠り所となる帰属感ともいうべきか、2年ぶりの活気を懐かしく感じました。

 

 

オープニングは、史上初のオープンリーゲイの大統領候補者として民主党候補者指名争いで善戦したピート・ブティジェッジ(Pete Buttigieg)氏の予備選挙の奮闘を追ったドキュメンタリー映画でした。インディアナ州・サンスベンド市の市長をしていたブティジェッジ氏が大統領を目指すことを決断し、民主党候補者との指名争いで奮闘する様を描いた内容。配偶者であるチャスティン(Chasten)の内助の功も映画の見どころでした。ブティジェッジ氏について、これまでは私は、頭脳明晰で、白人で、養子も迎えて順風満帆、いわゆるアメリカのゲイのヒエラルキーの中でもトップにいる雲の上のような存在だと勝手に思っていましたが、このドキュメンタリーを観てこれまでのイメージが覆りました。市長時代の職場や住んでいた家も映し出されていましたが、我々となんら変わりない一市民で、チャスティンとのやりとりを見ていると、まるで私とDの日常にようで急に親近感を覚えました。

 

 

 

 

民主党大統領候補指名争いで序盤善戦したピート・ブティジェッジ氏(右)とそれを支えた配偶者のチェスティン(左)

 

ドキュメンタリーを見ていて、ピート・ブティジェッジ氏の人間味に触れて、まずます彼のファンになったことは当然ですが、彼がこうしてアメリカの中央政界で有名になったおかげで、アメリカに住むLGBTコミュニティーは多大な恩恵を受けていると思いました。民主党と共和党の2大政党制であるアメリカの政治は、昨今さらに社会の分断を深めていますが、同性婚を含め同性愛者の権利はその焦点の一つ。伝統的な男女間の結婚こそが正当で、中には同性愛を罪とみなすような宗教票の獲得を目指し、政治カードの切り札の一つとして保守共和党がLGBTの権利の剥奪を次々に仕掛けています。元々同性婚が最高裁で認められたのも、9人の最高裁判事の多数決で賛成5対反対4という僅差でした。ドナルド・トランプが大統領時に最高裁判事3席の入れ替えがあり新しく指名されたのは全て伝統的に同性婚に反対してきた保守派の判事。歴史に「もし」はありませんが、仮に今の最高裁の構成で審議したら全米における同性婚は反対6賛成3で否決されることになります。ブティジェッジ氏は大統領のポストには手が届かなかったものの、その後バイデン大統領に閣僚ポストに指名され、半数が共和党議員が占める含む議会でも賛成多数で運輸長官(日本で言えば国土交通大臣)に就任しました。この事実で、これからはそう簡単には同性愛者の権利を剥奪したりはできないことになります。今後、ますます彼が活躍し、”同性愛公表の”という枕詞がつかないようになる日を心待ちにしています。

 

力強いスピーチが魅力。でも、本当は大人しくシャイだそうです

 

ドキュメンタリーを見ていると、ピートは内向的でチャスティン氏は明るくて社交的な様子。二人は絶妙に補い合っているようです。

 

映画祭の話に戻り、2日目以降もドキュメンタリーや長編映画、短編集もいくつか鑑賞しましたが、ゲイ・レズビアンというテーマだけでなく、バイナリーやトランスジェンダー、そして同性愛に非寛容な宗教下で暮らす同性カップルの話など、なかなか知り得ない人たちの物語には心を打たれます。まだまだ観たい作品が目白押し、これから26日までは寝不足が続きそうです。SVAシアターを中心に、マンハッタン、ブルックリンで開催中です。アメリカ国内に在住の方は、ストリーミングサービスでぜひ!期間中全ての作品がオンデマンドで鑑賞できるVirtual All-Access Passがお得です。

 

 

 

NewFest映画祭のメイン会場SVAシアター。ニューヨークの映画館にも徐々に活気が戻ってきました。