恐怖のマティアス人 | SFショートショート集

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SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「サラとニナの隠れ蓑」・・・続編です。

 

 カーラとメグの前に現れたディルクとディーデは異様な雰囲気の黒ずくめのコスチュームに身を包んでいた。ただし、肌色は妙に淡いグリーンが混ざったような乳白色であった。二人はどうやらサラとニナ同様双子の兄弟のように瓜二つである。

 そのひとりディルクがスーパーツインズに話しかけた。

「転送ポータルの起動まであと10分を切った。お前たちはもう諦めたほうが良い。でなければ、我々の力を存分に味わうことになる」

カーラが

「私たちは絶対に最後まで諦めないわ」

もう一人のマティアス人ディーデが

「ならば覚悟しておけ」

 

 そう言い放つとマティアス人の二人は互いに向き合って手を相手の肩に乗せた。

 

 すると突然二人がぶるぶると震えだしたかと思うと、見る見るうちにディルクとディーデは融合してひとりの人間に姿を変えた。さらに再びぶるぶると震えだしたかと思うと今度は二人のマティアス人に分離した。これだけでは終わらなかった。再び二人になった直後にそれぞれが細胞分裂のように次々と増えていったのだ。

 カーラとメグの前には、あっという間に数十人のマティアス人が生まれていた。まるで無限連鎖でクローン人間が誕生しているかのようである。すでにオリジナルが何処に居るのかさえ分からなくなってしまった。最前列のマティアス人が突然カーラとメグに襲いかかってきた。スーパーツインズはテレキネシスで彼らを蹴散らしたが、次から次に襲ってくる。その間にもマティアス人の細胞分裂は止まっていない。さらに数が増え続けていた。倍々に増え続けているように見える。

 他のサリームメンバーも応援に入って来たがまるで埒が明かない。今やマティアス人の数は数百人に膨れ上がっていた。あたり一面を覆いつくす勢いである。テレキネシスの威力にも陰りが見えていた。カーラとメグは体力の消耗が少ないパワービジョンをより多く使用するようになっていた。二人の体力は限界に来ていたのである。

 

 そんななかでも、ラウロが圧倒的な腕力を見せていた。力に任せて一度に何人ものマティアス人をなぎ倒していた。

 リリーは接近戦でヒート・セーバーを駆使し、時にスーパーツインズに変身してテレキネシスで襲い掛かるマティアス人のクローン軍団を蹴散らしていた。つい数分前に脳裏で見た恐怖の根源が・・・同じ顔の群衆が際限なく襲ってくるイメージは、これだと初めて理解した。

 

 低空を浮遊していたデビットは、パワーウェーブを上空から照射してクローン集団を倒していった。パワーウェーブは神経を麻痺させる。

 同じく浮遊していたジョージは、コールドビームを照射してマティアス人軍団を次々と氷漬けにしていた。

 クリスチーヌはフラッシュリングをまき散らして拘束の山を築いていた。

 

 転送ポータルの起動までに5分だ。

 

 だが、彼らの増殖のスピードは衰えなかった。最初はマティアス人の拘束数と増殖する数に大きな違いはなかった。しばらくは膠着状態であった。しかし、時間の経過とともに増殖するマティアス人の数は増えていった。まさに無限増殖するマティアス人の恐怖は悪夢の現実化だ。なす術もなく時間だけが無情に過ぎていく。

 

 

 一方のチェスラ一行は巨大な転送ポータルの足元近くに陣取って、サリームの苦戦している様子を高みの見物状態で見ていた。

笑みを浮かべながらバリーが

「あなたの言うとおりになりそうですね」

チェスラが

「地球人が我々に歯向かうなどということは時期尚早だということが分かっただろう。大量の核ミサイルが手に入れば、地球はおろかこの銀河系宇宙の大半を従わせることも夢ではない。そうなったらバリー、お前には地球を任せる」

 

 この時、転送ポータルの起動までに残りわずか3分だった。

 

 この何とも威勢のいい会話をスーパーツインズに変身したまま近くで聞いていたサラとニナには、カーラたちの言葉が脳裏によみがえってきた。

 

あなたたちの本心はやはり”核”を憎んでいる。自分に正直になって。お願い、マリコフに加担しないで・・・あなたたちが受けた仕打ちを思うといたたまれないわ。でも破壊と復讐に生きたところで心の傷は決して癒されないわ”

殻に閉じこもっていても何の解決にも結び付かないわ。勇気を出して私たちを信じて、私たちはあなたたちを助けたいのよ・・・”

 

 そうした中でカーラとメグに転機が訪れようとしていた。突然目の前にイメージが現れた。これはテレパシーによるイメージであることは二人にはすぐに察知できた。

 

 転送ポータルの起動までに残り2分を切っていた。

 

 スーパーツインズが見たイメージは、マインドコントロールを使えばマティアス人のオリジナルをすぐに見つけられる・・・というサインであった。オリジナル以外は中身のない人形同然であるということもイメージから理解できた。すぐさまスーパーツインズは空中に浮遊しながらマインドコントロールを駆使してオリジナルを探索した。

 

 この時、転送ポータルの起動までに残り1分と迫っていた。

 

 マティアス人のオリジナルの二人はすぐにメグが見つけた。頭を抱えた二人のマティアス人を群れの中から見つけ出した。すかさずメグはテレキネシスで持ち上げると、デビットがパワーウェーブで仕留めて、ジョージが二人のマティアス人をフラッシュリングで拘束した。

 

 その瞬間周りを埋め尽くしていたマティアス人のクローンたちが消滅してしまった。

 

 その時、転送ポータルの起動までに残り猶予は30秒しかなかった。果たして間に合うのか・・・

 

 マティアス人のクローンたちの消滅を確認したクリスチーヌとカーラ、そしてメグに変身していたリリーはチェスラのもとへテレポートした。

 

カーラは、チェスラの仲間が介入できないようにテレキネシスで周囲にバリアを張る。

クリスチーヌは、間髪を入れずフラッシュリングでチェスラを拘束。

リリーは、転送ポータル装着の起動タブレットの停止ボタンをタップ。

 

 これらの一連の行動はほぼ同時に行われた。安心し油断していたチェスラと仲間たちはあっけにとられて何の抵抗もできずに茫然自失状態になってしまった。

 

 間一髪で転送ポータルの起動を阻止できた。

 この時、起動タブレットが示していたカウントは、ポータル起動の2秒前で止まっていた。

 

 戦いで負傷した異星人と機能停止したサイボーグたちを除いて、拘束したチェスラとマティアス人以外の仲間たちはいつの間にか撤退していた。そこへ遅ればせながら宇宙公安のパトロールを引き連れて到着したのはシャリーである。

シャリーが一言、

「私の出る幕はなかったようですね」

拘束したチェスラとマティアス人、負傷した異星人、損傷したサイボーグたちをシャリーに引き渡した。

 

 肝心の転送ポータルはというと・・・

 

 あくまでも核保有の星では巨大転送ポータルは許可できないということで、残念な事であるが撤去する以外に方法はなかった。

 

 スーパーツインズが受け取ったテレパシーのイメージは・・・サラとニナからであった。今回はサラとニナのおかげで救われたといっても過言ではない。「ありがとう」の気持ちをテレパシーで伝えるために、彼女たちがこの時点でまだ変身を解いていなければ良いと願っていた。そして、彼女たちの心に変化が芽生えたことは間違いないとカーラたちは確信していたのである。

 

 忘れてはいけないサイモンとミニョンはというと、翌日までパワーチャージしてみごと復活したのである。

 

 

 

…続く