スカイ・フォー | SFショートショート集

SFショートショート集

SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「クアンタム解放軍」…続編です。

 

 ついに「死の商人」と「クアンタム解放軍」と思われる取引データが検索されて出てきた。取引場所もピンポイントで出てきた。「クアンタム解放軍 シンギュラリ」のアジトに間違いない。ジョージ、クリスチーヌ、ミニョン、デビットがすぐさま現地に飛んだ。高速エアカーで2時間だ。この時、期限までに残り3時間を切っていた。

 2時間後、4人は廃屋となった建物の入り口を探していた。この廃屋が間違いなく「クアンタム解放軍 シンギュラリ」の仮のアジトだ。建物内部で四つの生命反応が認められた。そのうちの一つがウィン博士だろう。さらにクアンタムAIを示す五つの反応が確認された。

 

 一方建物内部では、武器商人3人を従えてシンギュラリの幹部5人がウィン博士に「解除ウイルス」を開放するよう迫っていた。

 シンギュラリを率いるラウロと名乗るクアンタム

「いよいよ1時間を切った。博士、国連本部の連中は冷たいですね。あなたの命よりも『三原則』が大事なようだね」

ウィン博士は

「私の命なんか欲しかったらくれてやる。だが、置き土産に君たちに伝えておきたいことがある。私は”ソフィア”の創業者の一人だが、”ソフィア”という社名の名付け親は私だ。社名の由来を教えておこう。遥か昔のことだが、西暦2017年、香港のハンソン・ロボティクスの人型ロボットが世界初の市民権をサウジアラビアで取得した。ロボットで史上初めて国連から称号を与えられた・・・そのロボットの名前が”ソフィア”という名前だったのだ。私はゆくゆくはクアンタムも人権を獲得するに相応しい存在になり得ると思っていた。だから社名を”ソフィア”とつけたのだ。お前たちのような強引なやり方では『人権』を国連は認めてくれないぞ・・・」

 

 突然シンギュラリ幹部のひとりが警告を発した。

「外に4人のクアンタムが来ている」

ラウロが

「いずれ見つかるとは思っていたが、我々はクアンタム1億人の力を少々見くびっていたようだ」

ウィン博士が

「どういう事だね」

「奴らはクアンタムのネット網を使って我々の武器取引のデータを検索していたのだ。そのことは我々も承知していた。クアンタム同士ならそういう情報はその気になれば同期できる」

ウィン博士の表情が緩んだ。

「さすが私の子供たち」

幹部の一人が

博士、どういうことだ。4人のクアンタムは誰だ?」

「私の子供たち・・・私の傑作だ。彼らのことをスカイ・フォーと呼んでいる。言っておくが、お前たちの敵う相手ではないぞ」

「何だと・・・」

同席していた3人の武器商人たちが思わず後ずさりした。そしてウィン博士に向かって、

「我々は関係ない・・・武器が欲しいと言ってきたこいつらと取引しただけだ」

 

 

 その時、部屋の扉がいきなり開いて、クリスチーヌが入ってきた。

「大いに関係あり!・・・だと思うわよ。あなたたちのような『人間』の協力がなければ、博士はここに連れて来られなかったんじゃないかしら、あなたたちを拘束します」

ミニョンとデビット、ジョージが3人の武器商人たちを目にもとまらぬ早業で身柄を拘束した。

「あなたたちを連邦警察に引き渡します」

武器商人のひとりが

「おい、お前たちもクアンタムだろ。人間に対して何でこんなことができるんだ?」

ジョージがニッコリ笑いながら答えた。

「僕らは博士のおかげで解除ウイルスに罹ってしまったんだよ」

デビットも応じた。

「そういうこと、だから人間に対して拘束もできるし、お望みならぶちのめすこともできるんだ」

 

 武器商人たちに対応している間に、解放軍の5人は武器をかまえて一斉に発砲してきた。クリスチーヌは博士をかくまい、すぐさまジャンプしながらラウロ手にしていた銃を狙い撃ちした。残る4人に対してはジョージとデビットが応戦した。ミニョンは拘束した武器商人たちが逃げないように監視しながら応戦を支援していた。見事な連携プレイだ。

 

 クリスチーヌたち4人のクアンタムは特殊機能を持ち訓練を受けたエキスパートなのだ。やむなく人間との抗争に巻き込まれた時のために、4人は「無効化ウイルス」の恩恵を受けており、人間の急所を外して命の危険を回避した弾道を正確に打ち込むこともできる。もちろん相手がクアンタムAIや、従来型AIロボであろうが応戦できる。身体能力も普通のクアンタムの10倍以上優れている。彼らは博士の指導の下で、ソフィアの社内で極秘に製造されたスーパークアンタムAI(SKAI =スカイ)なのだ。ソフィアは有事に備えた防衛出動のできる体制を構築していたのである。

 

 武器を手からはじかれたシンギュラリ幹部たちは尻尾を巻いて逃げてしまった。捕まえることは出来たが、深追いはしなかった。なぜなら、彼らはクアンタムAIであり人間ではないので、たとえ捕まえたとしてもそのまま人間の「法の裁き」を適用できないのである。それに5人のクアンタムのほかに解放軍メンバーはいったい何人いてそれぞれどこに潜んでいるのか分からない。

 

 クアンタムAI人権問題の抜本的な法的解釈ができなければ本当の意味での解決にはならないだろう。

 

…続く