「異常はないんですけど……」


と、医者は少し申し訳なさそうな顔をして言った。


そりゃ、向こうだって困ってる。

検査して、数値は全部正常。


でも家族は「おかしい」と言ってる。


「とにかく、三食ちゃんと食べて、夜はしっかり眠ることです」

――出た。万能なアドバイス。


でも、僕はそのときふと思った。
(それ、できてないかもしれないな……)


年をとると、自由になる。

時間に縛られない生活。


だけどその自由は、決まった時間にごはんを食べなくなることでもある。


ごはんを食べない → 

体力が落ちる → 

動きたくなくなる → 

ごはんをますます食べない。


このループ。これが地味に体を壊す。



病気じゃない。

でも、元気もない。


「そりゃ医者も困るわな……」
待合室で、そんな感想をぼんやり思った。


朝昼晩、しっかり食べて、

寝て起きて。

それができて初めて、“病院”って場所が機能するのかもしれない。


そう思ったのが、この帰り道だった。