Pink Floyd - Us and Them (1973)
ピンク・フロイド - 私たち、そして彼ら

Us and them
私たち、そして彼ら
And after all we're only ordinary men
全ては所詮 普通の人々

Me and you
私、そしてあなた
God only knows it's not what we would choose to do
どっちも望んではいなかったことは 神様だけが知っている

"Forward!" he cried from the rear and the front rank died
「突撃!」 彼は叫んだ─最前線と後方で倒れる兵士の中から
And the general sat
そして指揮官は椅子に腰掛けていて
And the lines on the map moved from side to side
地図上の線は左右に動かされていた

Black and blue
黒い、そして青い痣
And who knows which is which and who is who?
何が何で、誰が誰なのか─それは誰に分かるのか

Up and down
勝利、そして敗北
And in the end it's only round and round and round
結局最後には ただそんな繰り返しなだけ

"Haven't you heard it's a battle of words?"
「ただの論戦に過ぎないってことを知らないのか?」
The poster bearer cried
ポスターを配る人は叫んだ
"Listen son" said the man with the gun
「ちょっとこっち来な」 銃を持った男が言った
"There's room for you inside"
「中に君にぴったりの部屋がある」

I mean, they're not gonna kill ya
僕の言いたいことは、こうしたらあなたが彼らに殺されることはないってことだ
So like, if you give 'em a quick sh...short, sharp, shock, they don't do it again
つまり、早い、鋭い、そして過酷な手段を使うと 彼らは二度と同じことをしないだろう
Dig it? I mean he got off light, 'cause I coulda given 'im a thrashin' but I only hit him once
理解したか?彼は軽い処罰を受けただけだ 僕が彼に鞭打ちをしたのは確かだが、それはたったの一回だけだった
It's only the difference between right and wrong, innit?
正義の側と正義ではない側の違いなだけだ そう思わないか?
 I mean good manners don't cost nothing do they, eh?
要するに、礼儀正しく振舞って損することはないってことだ で、彼らがそうしていたのか?違うだろ?

Down and out
貧困、そして飢餓
It can't be helped but there's a lot of it about
それは仕方のないこと しかしそれに関するものは沢山存在する

With, without
持てる者、そして持たざる者
And who'll deny it's what the fighting's all about?
そのための戦いってことを 誰が否定するだろうか

Out of the way, it's a busy day
道からどけ 忙しい日だ
I've got things on my mind
色々考えることがあるんだ
For want of the price of tea and a slice
一服のお茶、一切れのパンを買うお金が足りなくて
The old man died
老人は死んだ

 

以上が、超有名なプログレッシブロックグループの伝説のアルバム、「狂気」から引っ張ってきた作品、Us and Themの全歌詞と英訳だ。

 

この作品アルバムを最初に聞いたのは、1976年、高校3年の時。

当時、中途半端な高校生活に、詰まんねーなー、早く次のステップに行きてえなーと、いい加減ウンザリしていた時に、こいつを聞いた時のショックはデカかった。

兎に角、今まで聞いていたアメリカンポップスとは全く違う世界の話。兎に角、歌詞の意味がうぶな高校せーには、全く分からない。

何度も原題と中身を読み直しても、伝わってくるものがなくて、そのくせリズムだけはやけにに身に残る。

 

反戦の作品?あるいは精神を病んだロックギタリストの追憶の作品?一体なんだ?そういう疑問が残ったまま長く心のしこりとなって自分の中に残ってきた。

50歳を過ぎたころから、昔のいろいろなジャンルの作品をMac経由でiPadに入れ始めては削除するという繰り返しの中で、もう一度この作品を良く聞いてみると、今度は素直にストンと心に落ちた。

 

そうか、これは、単なる反戦の曲でもなく、また、金持ちと貧乏人の格差の問題でもなく、心を病んだロックミュージシャンの歌でもない、ということに気づいた。

 

彼らはこんな長い曲で、見事に現代の人間社会の孤独感を真面目に表現してきたと思う。死ぬ、ということと隣り合わせになった死の恐怖。これはクラシックにはなかった手法で、クラシック音楽の世界には、人間の孤独感をメッセージとして伝える、というのは、ない。モーツアルトやウイーン楽派の人たちには、孤独という概念がなかったんだろうと思うわけ。例えば、「美しく青きドナウ」聞いて孤独感を感じる人間なんかいないわけだし。

 

孤独とは、現代が生んだ人間の勝手な概念かもしれない。実は我々は、孤独でも何でもないのに。目の前に家族、友人、恋人、親友がいるわけだし。

The Dark Side of the moonとは、月の裏側、つまり人間の心の暗い部分を哲学的に音楽で表そうとしているようだ。「絶望と孤独」、それって、ロック的に表現すると、こんな感じだぜー、というノリ。彼らが音を想像していく中で、孤独の概念を具体的に表現しようとしていたと思える。

例えばこのアルバムで圧巻なのは、"Us and Them"で、死が自分のすぐ後ろに到達してきているんだぞ、的な,或いは死刑囚が絞首刑台に自らの足で登っていくときのような(?)恐怖感をロックという音楽でドラマチックに味わうことが出来る。現代の人間なら、誰もが少しはもっている心の闇の表現なのだ。それをロックで吐き出すという精神のカタルシスみたいなもんだろう。

 

そういう観点に立てば、シドバレットも、ロジャーウオーターズも、非常に洗練されたプロデューサーであると思う訳ね。”Any color you like”、に入るところのフレーズ、「ああ、僕もう飛んじゃう~。」、的な変調だけど、全体が計算しつくされ、完璧につながっている。まさに見事な商業的成功例ともいえる。