最近、私の働く病棟にも若い患者さんが多く入院されています。
今回受け持った患者さんの一人は、まだ21歳の男性でした。
彼はFragile X Syndrome (脆弱X症候群)と呼ばれる、X染色体に異常がある稀な疾患を持った患者さんでした。
そしてこの患者さんは4歳のときに、Autism (自閉症) の診断もされていました。(彼の自閉症も、この染色体異常の影響があったようです)
この脆弱X症候群の特徴としては(もちろん個人差があると思いますが)知的障がいなどの精神疾患、多動性や注意欠陥、そして情緒不安定による極度の癇癪などが頻繁に起こることがあるそうです。
この患者さん(Jくん)は、私たちの病棟へ運ばれたときのヘモグロビン値が4.2と異常に低く(成人男性の平均値は14~18)、ただちに大量の輸血処置が取られました。
彼の血小板もほぼゼロに近かったので、血小板の輸血も行われました。
彼の身体はこの低い血小板のせいで、あちこちに痣が出来ていました
このJくんの症状から血液のガンの可能性がみられたので、入院後は骨髄液の採取や血液採取など、原因追及のための検査が行われました。
Jくんはケアギバーであるお母さんが常に側に一緒についていました。
Jくんは21歳ですが、実際は5歳ほどの知能レベルしかありませんでした。
そのため何か説明するときも、小さい子供に話すようにゆっくりと簡潔に説明しないといけませんでした。
そしてJくんは、例えばこちらが何か話しても、それをすぐに理解したり覚えることができません。
そのためこちらも根気よく何度も物事を伝える必要がありました。
Jくんは自分が欲しいものが手に入らないと、それが手に入るまで何度も何度も「**ちょうだい」と言ってきます。
そのためお母さんもJくんが食べたいキャンディーやソーダ、そしてハンバーガーやチキン・ストリップなど、彼の欲しいものを欲しいままに与えている状態でした。
またJくんは自分の思い通りにならなかったときなど、かなりのTantrum (癇癪)を起こしてしまいます。
そのためAnxietyやAgitationを抑えるための薬を毎日かかざすに飲んでいました。
Jくんもその薬を飲むことは大事だと分かっているようで、その薬だけは必ず飲んでくれました。
しかし他の薬に関しては、、、「やだ、飲みたくない」と言って絶対に飲んでくれませんでした
そのためすべて点滴を通して投与することになりました(点滴投与だけはさせてくれたのです。)
さて早朝に、Jくんのお母さんがナースコールを押してきて、鼻血が出たと言ってきました。
通常であれば、まずは(血を飲み込まないように)頭を下げてもらって、鼻の付け根あたりを抑えて出血を止めようとしますが、Jくんは(予期した通り)とにかく鼻血が出たことがパニックとなってしまい、頭を下げることも鼻を抑えることも嫌がりました
鼻血を抑えるスプレーも試してみましたが止まりません。
そのうち、かわいそうなJくんは鼻血にビックリしてしまったのでしょう、、、ますますパニックとなり、そのうち嘔吐までしてしまいました
すぐに吐き気を抑える薬を点滴で投与し、ドクターとも相談して鼻血は血小板が低いことから起きていることが明らかだったので、また血小板を輸血することになりました。
そして2時間後、鼻血はようやく治まりました
その間、私はずっとJくんの側を離れられませんでした。
(輸血のこともあったのですが、とにかくパニック状態にあるJくんの側を離れることができませんでした。
その間、他の患者さんのケアは同僚に手伝ってもらいました。)
その後、Jくんは何ごともなかったかのようにケロッとして、「スプライトが飲みたい。」と言ってきました
しかし自分の鼻をほじくろうとするので()慌てて彼の手をとめながら、彼の神経を鼻ではなくて他のことに集中させるべく、テレビをつけて彼の好きなキャラクターの話をするようにしました
Jくんは多動性もあり、いつも何かしら身体が動いているような状態でした。
とにかく静かにじっとしていることが苦手なようです。
そして逆に何か歩いたりなどの運動をしていないと、ストレスが溜まってしまうのか、それも癇癪の原因になってしまうようでした。
そのため彼のお母さんは彼を病室の外に連れ出して、よく一緒に散歩するようにしていました。
それが1、2時間ごとです
彼のような疾患を持った患者さんを久しぶりに受け持ちましたが、このような精神疾患を抱えるお子さんを持つご両親には本当に尊敬の念以外考えられないです。
精神的にも肉体的にも、「大変」という言葉では表せれれないほど、ご両親の苦労は本当に想像以上だと思いました。
その日仕事から家に帰ってきて、息子がいつものように挨拶代わりのハグをしてくれましたが、当たり前のことを当たり前と分かってくれる息子と何気ないことを話しているうちに涙が溢れてきました
誰だって自分の子供には健康に産まれてきてほしいでしょう。
でも時にはJくんのような『特別な試練』を持って産まれてくることもあります。
Jくんの両親は、愛する我が子の試練を受け止めて、我が子とともに前を向いて生きていかないといけません。
でもその道のりは、それを経験していない私たちには想像ができないくらい本当に大変なものです、、、
Jくんの検査結果はまだPending (検査結果が出るのを待っている状態)なのですが、もし特定のガンと診断された場合は、これから我が病棟での長い治療が必要となります。
仕事の帰り道、橋のたもとにキャンプしているホームレスのテントを見ました。
先日のウインターストームをも乗り越えたホームレスのテントです
その数はだんだん増えてきているように思います。