今回も無事にシフトが終わりましたが、先週受け持った患者さんの中にとても重い病気を持った人がいました
彼女(Bさん)はケニアで生まれ育った人でしたが、2年前にアメリカに移民として移り住みました。
Bさんはケニアにいた頃にHIV陽性が発覚し、それが元で結核(TB: Tuberculosisの略です。長いのでTBと呼ばれています。)にかかってしまいました
しかしその後アメリカへ渡った後に結核病の治療を受けて、今は結核菌自体はアクティブではなくて体内に潜伏している状態でした。
でもその後、彼女はコロナにも感染してしまったのです。
現在コロナ感染自体はどうにか治まり、彼女は退院して家で静養していました
ところが先週のこと。彼女がお手洗いに行ったときに急な吐き気を催してしまい、吐いている間に気を失って(Syncope)倒れてしまったので、そのまま救急車で我が病院へ搬送されたのです。
CTとPETスキャンをしたところ、なんと彼女の心臓に大きな腫瘍が見つかりました。
(癌細胞は普通の細胞よりも多くブドウ糖を取り込む性質があるので、PETスキャンはこの性質を利用して癌細胞を見つけ出します)
そして更なる検査の結果、実は悪性リンパ腫の一つである非ホジキンリンパ腫 (Non-Hodgkin's lymphoma with atrial septal mass) であることが分かりました。実はHIV陽性の患者さんはこの非ホジキンリンパ腫にかかるリスクがとても大きいです。(結核も同様です)
Bさんの場合は、腫瘍のせいで心臓の周りにも水が溜まっており、まるで心不全に近い状態で「めまい」を引き起こしたようです
当初は彼女の容態がかなり悪化していたのでICUにステイしていたのですが、その後悪性リンパ腫で緊急の抗がん剤治療が必要になったので我が病棟へトランスファーされたのです。
Bさんはまだ30代前半の若い女性でしたが、心臓の腫瘍のせいで体力がほとんどなく、お手洗いに立つのも危ない状態でした。
Bさんのリンパ腫は実はかなり稀なもので、現時点では手術で腫瘍を取り除くことはかなり困難でした。
そのため、まずは抗がん剤にて腫瘍を小さくすることになったのです。
しかしBさんが受ける予定の抗がん剤は、実は(投薬量によるのですが)心毒性 (Cardiac toxicity) があるものだったので、心不全のような状態を既に引き起こしているBさんの状態は投与中もよく見ていなければなりませんでした。
しかもこのような急激な抗がん剤の投与によってガン細胞が短時間で大量に死滅し、それによって体内のカリウムなどが上昇して更に重篤な病態を引き起こすことがあります(Tumor Lysis Syndrome)。
特にBさんの場合は既に心臓疾患を抱えていたので、6時間ごとに血液検査を行ってBさんの状態を見守ることになりました。
また通常、このようなリスクのある患者さんには、抗がん剤投与の間、必ず点滴による水分補給をするものなのですが、Bさんの場合は心臓の腫瘍のために点滴を流しても尿としてあまり排出されませんでした。
そのため抗ガン剤を始めてから、次第にBさんに浮腫 (edema) が見られるようになりました。
普通であれば利尿剤を投与して尿を促すのですが、彼女の場合は腫瘍の位置の関係で利尿剤自体が症状の悪化を招いてしまうため、それもできませんでした。
Bさんを受け持っている間、私はとにかく彼女の状態が心配で何度も何度もベッドサイドへ足を運びました。
そしてBさんは抗がん剤の他の副作用(吐き気など)には耐えてくれていましたが、しかし「今、寝ている間に気を失ったの」などと言われ(Bさんには、ずっと心臓のモニター(telemetry) を付けていましたが、それには異常がありませんでした)ドクターとも頻繁に連絡を取り合っていました。
何かあるとドクターもすぐにベッドサイドに駆けつけてくれました
今回の抗がん剤治療によって、Bさんの心臓の腫瘍が少しでも小さくなってくれることを祈るばかりです。
大変な疾患を抱えた患者さんでしたが、少し余裕があったときなどは自国の話もしてくれて、とてもフレンドリーな患者さんだったのです。
Bさんの抗がん剤治療はこのまま6日間続きます。
私がもう一つ心配なのは、Bさんが抗がん剤治療を受けた後はどうしても免疫が低くなってしまいます。
現在彼女の身体に潜状している結核菌が(免疫が低くなることで)またアクティブにならなければ良いのだけれど、ということです。
ガンだけではなく他の重い疾患のある患者さんのケアは、更にいろんな併発症(complications) が起こることも考えられるので、常にアセスメントすることが必要となってきます。
さて先日はトレーダージョーズでお馴染みのチョコレートクロワッサンを焼きました。