いつもクリスマスから新年にかけてはバケーションを取っています
それで昨日は12時間シフトを一日だけやって終わりでした、ありがたいです
昨日受け持った患者さんの一人は、Angiosarcoma(血管肉腫)というガンともう7年近くも闘っていました。
このガンはかなり稀なので治療法も実はあまり多くないのが現実です。
彼女は抗がん剤と放射線治療をずっと続けていたのですが、効果は残念ながらあまり得ることができませんでした。
そして最近になってガンが肺にまで転移していることが分かったのです
それで今回、アメリカでもトップの指に入る医療機関によって開発されたClinical trial(治験、この場合新しい抗がん剤です)を受けてみることにしたのです。
Clinical trialは、今までいろんな治療を受けて効果がなかった患者さんにとっては本当に藁にもすがる存在、と言っていいかもしれません。
この患者さんはこのClinical trialを受けられる基準も十分満たしていたので、早速治療が始まりました。
Clinical trialについては、医療スタッフ側も投与するにあたって細かい指示が与えられます。
(バイタルやアセスメント、そして血液検査の内容や頻度など)そして投与に伴う副作用なども一通り勉強します。
私が患者さんに(Clinical trialも含めて)抗がん剤を投与するときは、
「神様、この抗がん剤がガンをやっつけてくれるようにそして副作用が起こらないようにどうかお願いします」
と心の中で念じながらやっています。
(もちろん科学的根拠も何もありません。でも抗がん剤は本当に辛い治療ですから、そう思わずにはいられないのです。)
それで抗がん剤の準備をするたびに、なぜか自然と眉間にシワが寄っていることが多いらしく(この「念入れ」の儀式のせいです)、ときどき優しい患者さんが
「仕事大変そうですね~。大丈夫?」
と逆に気を遣っていただくことがあったりします(苦笑)
それで(すみません、話は戻ります)その患者さんは新しいClinical trialを始めたのです。
ところが一週間もしないうちに患者さんに重度の意識障害が認められました。
CTスキャンをしたところ、脳にHemorrhage(出血)が起こっていることが分かりました。
しかし当時その患者さんはDVT(静脈血栓)があったためにAnticoagulant(血液凝固を阻止する薬)も服用していました。
そのため、その脳出血がClinical trialの副作用なのか、それともAnticoagulantのせいなのか、またはAngiosarcomaというガンのせいで起きたものなのか(このガンは稀に脳出血を起こすことで知られているのです)定かではありませんでした。
しかしこの件でAnticoagulantとClinical trialをひとまず打ち切ることになったのです。
この脳出血のために患者さんには軽度の言語障害が起こっていました
しかし彼女はどうしてもこのままClinical trialを続けたい、という強い希望を持っていました。
ところで大学病院では様々な医療チームが治療に対して意見を出し合うのが普通です。
彼女の件に対しても、脳神経外科のドクターは脳出血に対して再度手術が必要だ、と言い、放射線のドクターはまずは放射線で腫瘍を小さくしないと、と言い、そしてClinical trialを推奨するドクターは患者さんの意思を尊重してこのまま治験を続けるにはどうするか、などなど様々な意見を出して患者さんやご家族と個別に話していました。彼女の主治医はもちろん、彼女の意思を尊重していく方向でした。
ちなみに英語ではこのような状態のことを「Too many cooks in the kitchen」と表現します。
あまりにもいろんな人たちが一人の患者さんの治療方法に対して意見を言ってくるので、これには患者さんやそのご家族もかなり戸惑うことになりました。
それで翌日、彼女の治療に携わる医療チームと患者さんとご家族が一緒になり、ケア・カンファレンスを行って一番最適な治療法を話し合うことに決まりました。
私はカンファレンスの前にシフトが終わったので出席できませんでしたが、次のシフトのナースがそのカンファレンスに出席します。
特に彼女のような今までの症例の少ない病気に対しては、医療チームが各々の専門の知識を出し合って(その患者さんにとって)一番最適である治療法を決めていくしかないのです。
そして他に受け持った患者さんの一人で、今回珍しくガンの病気とは無縁の(?)患者さんを我が病棟に受け入れることになりました。
彼はまだとても若い青年でしたが、IVドラッグ、特にヘロインの常習者でした。
そしてHIV+、C型肝炎も患っていました。
何日か前に首に大きな瘤のようなものができてしまい、とても痛かったので、自らERに来たとのこと。
本人は首に針は刺していないので、どうしてこんな瘤ができたのか分からないと言っていました。
ドクターがすぐに瘤から膿を出し、中をきれいにしてからガーゼを詰めました。
それですぐIVによる抗生物質が始まりました。
この患者さんはHIV+のためにART療法で既に様々な薬を飲んでいました。
ART療法はHIVを治すことはできませんが、病気の進行を抑えることはできます。
(血液検査で身体の免疫力であるCD4の数により進行具合を定期的にチェックします。この数が少なくなるとエイズと診断されるのです。)
彼はきっとはたからみたら、ドラッグの常習者とは思えないほど爽やかな好青年でした。
病院に入院した早々、お腹が空いたといってチョコレートプディングを2つもペロリと食べて、パンケーキやベーコンが朝食に食べたいと言うので早速オーダーしました。
ヘロインを最後に使ったのが2日前と言っていましたが、まだWithdrawal symptoms (禁断症状)も出ていない状態で安心しました。
でもまだ油断はできませんが。
しかしこの患者さん、アセスメントで首や背中に赤い痣のようなものがありました。
一応ドクターにも話したのですが、Kaposi's sarcoma (カポジ肉腫-CD4の数が少なくなって免疫が弱い患者さん(もうこの時にはエイズと診断されているはずです)に起こる特有のガンです) などでなければ良いのですが、でも彼の病歴からはいろんな心配もあるのでやはり入院して良かったのだと思います。
でもこんな若い患者さんが入院してくると、やはり心が痛みます。
ドラックに手を出すということはよほど何か辛い経験をしたのかな、とか勝手にいろいろ考えてしまいます。
さてここまで書いて今は朝の6時半になりました、笑
今日はこれからジムに行ってこようと思います