まるでお芝居やってるみたいだねって山下に言われた。
それは私もおんなじで、テレビとかの恋愛企画もので目にする山下美月の表情だなってぽそっと思ってしまった。
だって当然。
今までがずっと同じグループのメンバー同士だった関係がいきなりじゃあ恋人同士ね、って言われたってそんな感覚は上手く対応してくれはしないのだから。
山下だって困惑して当たり前だろう。
あのくぼしーがいきなり「みづき」って呼んでくるんだもん。
恥ずかしいという感情は難しい。
人前で気持ちが落ち着かない、どう振る舞っていいのかわからない気持ちだと言うが。
恋人同士ってそういうの乗り越えていかなくちゃいけないものだって分かっているのに、どうしてかそれを隠したい心理が働いてしまう。
おかえしに「しおり」って呼ばれたときも、「やっぱり私たちらしくないから元に戻そ」って、いつもの友達同士っぽい空気でははっと笑いながら返してしまった。
難しい。どうしても難しい。
恥ずかしい。
山下の前で恋人の久保史緒里を演ずるのは恥ずかしい。
今日だって本当ならデートだ。
誰がどう聞いたって恋人が週末にショッピングモールにお出かけなんて、絶対にデートでしょってなる。
それなのに私たちの口約束の際に出てきた単語は「おでかけ」だった。
ああ、緊張する…
だってあのモデルさんでもある山下美月のエスコートだよ。
プライベートなひとときを独り占めだよ?
これが私じゃなくたって誰だって緊張するに決まってる。
そんなことを駅の改札の入り口であたふた考えながら、もしかするとちょっぴり独り言でも呟いていたかもしれない。
待っている姿は実に不気味な存在だったに違いないよ。
キタ。
山下さん到着。
今の季節にちょうどいいフレアスカートに、手がすぽっと隠れるオーバーサイズのパーカーに身を包んでいる。
やっぱりモデルさんだ。
胸にぴょんと長く垂れた2本の紐が、華奢な彼女の身体をさらに引き締めていた。
「やっほー」
「や、やっほー」
「どうしたの?ぎこちないよ」
「ううん、なんでもない」
「まぁいっか、いこ?」
「うん」
恋人同士の逢引作法の模範解答を模索しておりましたなど言いたくない。
すたすた軽やかに前を進む山下の後を黙って追う。
ショッピングモールにたどり着くまでの道のりは簡易だった。
ただいつもどうり私たちらしい会話をしながら電車に揺られるだけ。
問題はそのデートとやらが始まってからだ。
ただでさえトップアイドルと一緒におでかけってだけでも緊張ばくばくものなのに、恋人同士という関係にまで発展してから初めてのデートだったのだから。
大型のショッピングモールに着くと、最初に定番のファッションブランドもの洋服屋さんに入った。
「どう、これ似合う?」
山下は淡い白色のロングスカートを手にして胸の前で披露して見せる。
ああ、もう。
全部似合いすぎてやばいです。
可愛い。
ってこれは普通に口にしても問題ないはずだよね?
いちいち自己問答しないと会話できないのか私は。
とかなんとか思っていると、思わず口にしてしまっていたのか
「そういうの全然、言ってくれて大丈夫だからね…」
って山下に釘を刺された。
ああ…ここでも独り言呟いてたのか。
「っていうか恋人同士なんだから、可愛いとか素直にきかせてよ」
「っは、はい」
「なんで敬語?」
ははって、眩しすぎる笑顔が溢れる。
「じゃあ、今すぐにでもお持ち帰りしたいです」
「…、それはあんまり頻繁に口にしないほうがいいかな」
「…あっ」
思わず暴走。
何件かブランド店をはしごしているうちに、美月のおかげでだんだんいつもの私たちらしく自然に振る舞えるようになっていった。
いつの間にやら、封印していた(というか私が勝手に恥ずかしがっていただけの)”下の名前呼び”も自然と出てきていた。
美月は本当になんでも自然に熟す。
恋人とかうんぬん抜きにして本当に人間としても尊敬しているから。
単純に彼女のそんなフランクに過ごせる純粋さというのが一番好きなポイントだった。
「ご飯食べよっか?何が良い?」
「うーん…なんだろ、ハンバーガーとかでもいいかな」
「じゃあ決まり」
二人で並んでメニュー注文してカウンター口でおぼんを受け取る。
美月の食べてるところもかなり私の中でランキング上位だ。
目をにーってしてかぶりつくその姿が容易に想像できたので、無意識のうちにハンバーガーショップと口にしていた。
「そんなに見られると食べにくいんだけど?」
「えっ…私そんなに見てた?」
「ええそりゃあもうがっつりと」
「ああ…ごめん!」
急いで手元のベーコンレタストマトの断層にかぶりつく。
ラップのガサガサって音がわざとらしく響く。
「しおりってさぁ…」
「ん?」
「私のこと好きすぎるでしょ?」
「っぶッ!!」
「あ、ごめん!急すぎたよね」
美月の急な爆弾発言によってトマトソースが鼻の粘膜にまで入り込んでむせてしまう。
ごほっごほっ
何好きすぎるよね、って?
そりゃあ恋人のことだから、好きなのは好きだけど…
私って美月のこと過剰に好いてるのかな?
「落ち着いた?」
「…うん」
「で、?」
「でって…」
「私のこと好き?」
これってあれだ。
ノギビンゴとかでやる山下美月の小悪魔質問だ。
ふいにそんなことを思い出して、やっぱりお芝居みたいな関係だなって思った。
「好きだよ」
「だよね~」
「何、そんなこと急に」
「しおりって、私のこと見過ぎなんだよ」
べーって舌を下唇に乗せてイタズラに笑ってみせる美月。
ああ、なんだそういうことか。
私ってば…
もうとっくに好きすぎるのバレちゃってたわけだ。
不器用な自分。
「めっちゃ好きでした」
「やったー、言わせてやったぜ」
ご機嫌な美月を傍目に私はBLTをばくばくを頬張るしか出来ないでいた。
お昼ごはん食べたあとは、可愛い雑貨屋さんめぐりを二人でした。
美月ってけっこうサバサバしてるけど、こういう可愛いものに意外と目がなかったりする。
私としては美月の女の子らしい一面が垣間見えるこの瞬間は大好物だ。
あ、また目があった。
「っもう、見過ぎだって」
「私また見てた?」
「そんなに好き?私のこと?」
「好きです…」
と、もうそう答えるのが定番化してしまったなこのやりとり。
「ならもっと、私に甘えなさい。私はあなたより2個も年上なんだから」
「そんなに甘えてもいいの?」
「いいって、だって恋人同士でしょ?」
「うん、そうだね」
にこっと美月は笑いながら手元にあるキーホルダーショーケースをくるりと回してみせた。
「それとも…」
くるくる回った什器がぴたっと回転を止めて私の視界が暗くなる。
周りの喧騒が一旦静かになったように見えて、気づいたら美月の顔が斜めすぐ下に位置にあった。
みずみずしいちゅという音が左耳に届いたところで、ほっぺたにキスされたのだと気づいた。
ほっぺが熱い。
「こういうことしないと恋人らしくなれない?」
「…あ」
「ふふっ、こういうときは年相応になるんだね…」
美月は再度什器に視線を戻してふんふん鼻歌を奏でながらくるくる回し始めた。
やっぱりこの美月はお芝居してるみたいだなって、初キスなのにそんな感情が溢れてきた。
あの小悪魔みたいに前髪を耳にかける仕草だってどこかで目にしたことがある。
ぼーっとする視界の中で今の出来事を整理するには、そう思うしかできないでいた。
すると、美月はまた私のほうに振り向いて耳元で囁いてみせる。
「お芝居みたいって思った?お芝居じゃないよ」
お芝居みたい?
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愛おしいきみさんからのリクエストでくぼした甘々リアパロカップルでしたー
とにかく美月さんのことが好きすぎるくぼしー目線で描かせていただきました(*^^*)
いろいろと暴走気味でしたね~
リクエストありがとうございました。