少し前くらいから理佐が何かを悩んでいたのは知っていた。

 

友達を探しているって言っていた。

 

昨日の志田愛佳って子がそうなんじゃないかって思って、最初は手を躊躇った。

 

そのまま噛まれて吸血鬼になる運命も覚悟した。

 

そうなれば、きっとそこが私にとってのゴールだったってこと。

 

でもゴールはそこじゃなかったみたい。

 

 

理佐の探している友達はあの人じゃない。

 

再会したとき一瞬でわかった。

 

 

私も、たぶん一瞬で決まる。

 

 

 

 

 

 

 

風が心地いい。

 

冷たいけど。

 

季節はずれの日向ぼっこって、まるで世間の外れでひっそりと生きている私たちに相応しいなって。

 

ギラギラと照る太陽のした、こんなにも温度の低い風が吹く。

 

 

私にも少しくらい彼女の気持ちが分かる。

 

ほんの少しだけ。

 

 

その彼女は膝小僧の上で黙って腕組作ったまま動かなくなった。

 

 

 

「探している友達ってどこにいるの?」

 

 

たぶん、少しなら分かる。

 

だって初めて会ったとき、私は彼女のことが信用できなかったのに、その一言でなぜだか正面から向き合えるような気がしたから。

 

 

友達はほとんどいない。

 

人生の数万と続くページをめくってみてもほんの数人くらいしか見つからなかった。

 

よだっちょでさえ、偶然が巡り巡ってやっとのところで仲良くなれたのに。

 

簡単にページが破れちゃった。

 

 

それなのに、理佐は。

 

この関係はずっとこの先も長く続いていくような気がした。

 

 

不思議なもんだ。

 

 

 

「どこにいるか…私が知りたい」

 

 

顔を見せないまま返事がきた。

 

 

「いなくなったってこと?」

 

 

「そうかも」

 

 

「そっか」

 

 

だから、私も顔を見ようとせず淡々と返した。

 

 

「名前とか、聞いてもいい?」

 

 

「……」

 

 

今度は返事が遅い。

 

迷いが見える。

 

顔は見えないけど。

 

 

「何のために聞くの?」

 

 

「……理佐に協力したい、じゃダメ?」

 

 

「…まだ」

 

 

「?」

 

 

「まだ、聞きたいことある」

 

 

「なんでもどうぞ」

 

 

やっと顔が見えた。

 

似合わない隈を作って、これまた似合わない鋭い目つき。

 

 

当然

 

私が憎いのだろう。

 

だって私は彼女から友達を引き剥がした。

 

引き剥がして、”保護”させた。

 

彼女には信じられなかっただろう。

 

たとえ理解することができたとしても、納得はできなかったに違いない。

 

だからこそあの目の下にある影。

 

昨日から今まで一言も言葉を発しなかった。

 

私も投げかけなかったけど。

 

 

「後悔してる?」

 

 

「何を?」

 

 

「愛佳を保護したこと」

 

 

「してない」

 

 

「……」

 

 

「全く」

 

 

目つきがより鋭く光る。

 

今にも襲いかかってきそうなくらい、殺意が向けられる。

 

でも殺意は一瞬だけ見せてみるみる収まっていった。

 

 

「小林、由依」

 

 

「小林由依…」

 

 

「私の幼馴染で親友」

 

 

「そう」

 

 

「半年以上前に突然いなくなって…」

 

 

「うん」

 

 

「連絡がとれなくなった」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「それで?」

 

 

「え?」

 

 

「もっと聞かせてよ」

 

 

「何を?」

 

 

「その子のこと」

 

 

「由依の?」

 

 

「あと、理佐のことも」

 

 

びっくりしてる。

 

目をすっごく開いて。

 

 

でもさっきまでとは違う優しい表情。

 

たぶんそれが彼女の本当の顔。

 

 

理佐はゆっくり話し始める。

 

ゆっくり。

 

 

私は相槌を打つだけで、理佐が話し終えるまで隣で話を聞き続けた。

 

 

そういえば、最近こんなふうに話しを引き出された気がする。

 

今度はこっちの立場になるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから理佐は自身のことを話し尽くした。

 

学生時代のこと、由依とのこと、それからバイトしてたころの話し。

 

愛佳のこと。

 

話している最中は私に疑問を向けることはせず、ずっと優しい顔。

 

 

理佐の話を聞いていて分かった。

 

理佐は本当に優しい心の持ち主だ。

 

それでいて楽しい。

 

 

心がほんわかするような楽しい思い出話。

 

 

「話してくれて、ありがと」

 

 

「それ私が言うセリフじゃない?」

 

 

「いいんだよ」

 

 

「今度は飛鳥の番だよ」

 

 

「私はシンプルでいい?」

 

 

「シンプルでも何でもいいから話してよ」

 

 

「私が探している友達の名前は与田祐希、よだっちょって呼んでる」

 

 

「え?よだゆうき?」

 

 

「たぶん理佐も聞いたことあると思う」

 

 

「…それって」

 

 

「うん、私が捜査隊に入る前に保護されちゃった」

 

 

「…ああ」

 

 

「保護されたけど、私は助けるつもりでいる」

 

 

 

正面を向いていた理佐は、首の角度を急に変えて迫ってきた。

 

 

「どういうこと??」

 

 

「保護された吸血鬼だって別に死んじゃったわけじゃないし、いつか助け出す方法が見つかるはず…って私は考えている」

 

 

「そっか…確かに言われてみればそうだよね」

 

 

 

盲点

 

というか国がこのことを内密に扱うのも、吸血鬼を保護するのだって、結局は全部一時しのぎでやっているに過ぎない。

 

なんで一時しのぎが必要かは、”吸血鬼”が存在するという非現実の中から何も知らない人々を納得させる材料が見つかっていないからの一点で説明がいく。

 

 

だから

 

 

「愛佳を捕まえた?」

 

 

「それは違う。…あの人を保護したのは、理佐が危ないって直感から」

 

 

「私が危ない?」

 

 

「うん。だっていくら友達だからって、もし吸血鬼にされちゃったらそこで終わりじゃない」

 

 

「まあそうだけど」

 

 

「あの人は救いが欲しいだけ…。仲間がいるっていう救いが」

 

 

「救い…」

 

 

 

 

まだ理佐という相方を失うわけにはいかなかった。

 

たったそれだけの理由。

 

 

 

私の手のひらに握り締めた覚悟はいとも簡単にプラスチックの機械を作動させてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。