恋はパワーだ、みたいなニュアンスのワードをテレビとか雑誌の片隅とか、いろんなところでよく目にする。
実際にそれを目にしてみても、ああそう、くらいにしか意識してなかったのだけど、身を持って体感した今の私ならやっぱり、と思える。
突然、愛萌が家にやって来て「お酒を飲みに行くからちょっとだけ借りるよ」って美穂を連れて行ってしまった。
私としては、美穂と同棲しているこの部屋を提供してあげてもよかったのだけど、きっと美穂なりのまだお酒が飲めない私への気遣いなのだろう。
飲むなら菜緒のいないところで…ってこっそり耳打ちしてるのを聞いてしまった。
付き合いだしてからというもの、美穂はより一層私に気を遣うようになった気がする。
別に、いままでの美穂がチャラチャラしてただなんて思っちゃいないけど、それでも顔合わせれば年相応にふざけ合ってばかりの関係だったから、こうやって24時間同じ空間で過ごすようになってみてその態度だから違和感が無いと言えば嘘になる。
「美穂って、お酒飲めるんかなぁ?」
20歳になったばかりってのもあるけど、少なくとも私と一緒にいるときはお酒に手を付けたところを見たことがない。
美穂がお酒飲んだらどういう感じで酔っ払うんやろ?
ささやかな疑問であり楽しみでもある。
言っちゃ悪いけど、ここ最近の美穂は平たく言って「カタブツ」だ。
この期に及んで私に対して良い格好するつもりなのか、お姉さんを気取っているのか、その辺りの真相はわからないけど。
やけに冷静なのが気に入らん。
もっと私の粋な一面にドギマギしてみせても良さそうなのに。
付き合ってしたいことって聞かれれば、一言目にはやっぱりイチャイチャしたい、と答える。
現に美玖には何度も「美穂とのこと」を迫られているのに、実のところノロケ話なんぞを披露する機会も今のところ全くないのだから、なんか寂しい。
もうこの際、思いっきり酔っ払って帰ってきてほしい、なんて思えてくる。
◇
その後美穂からの連絡は無くて、突然インターフォンが鳴る形となって訪れた。
玄関を空けてみれば、愛萌と好花が申し訳無さそうな顔して、二人して間に美穂をサンドした状態で突っ立っていた。
「菜緒ー、ごめん」
「こんなに美穂が弱いなんて思ってなくて…」
あ、やっぱり美穂ダメなほうだったんだ。
その立ち姿で簡単に察しがついた。
顔真っ赤にしてぐったりと肩を借りて立ってるのがやっとという感じ。
なんだか、その姿が愛おしいと思える。
「ううん、ええよ。ありがとね」
二人はお礼を言われるなんて思って見なかったってきょとん顔でとりあえず私に美穂を手渡した。
あー…お酒くさっ
でも美穂の匂いがちゃんとして、その体重をしっかり受け止めてあげる。
いいよいいよ、あとはこっちで全部やっとくからさ、って言ったら二人はバツが悪そうな態度でそそくさと帰っていった。
ありがとう、っていうのはこっちの話だから。
「みほー、私菜緒だよわかる?」
「んんー…」
「だめだこりゃ」
だいぶ伸びちゃってるみたいだから、とりあえずリビングに抱えていってソファに強引に寝かせる。
酔っぱらいの対処の仕方なんてこれっぽっちも心得てないし、寝かせたはいいもののどうしたら良いかわからず途方に暮れる。
「暑くない?それとも寒い?」
「…あつい」
「暑いのか…そんなら」
ひとまず上着を脱がせてその辺に放り出して、そういえばって、タンスに閉まっていた団扇を引っ張り出してくる。
ぱたぱた
これでええんかな?…確かに暑いって言うたよな今?
ぱたぱた
普通、酔っぱらいを団扇で仰いだりする?
そんなことしてるイメージが全然浮かんでこんくて、なんだか不安。
「みず…」
「あっ、水か。ごめんちょっと待ってて」
ドタドタと、そんな走る必要があるのかなんてそんな疑問も湧いてこず、とりあえずキッチンまで行って冷蔵庫を勢いよく空けた。
中にあったペットボトルを二つ取り出して、また勢いよくリビングまで駆け戻る。
「みほ!これお水!ほら」
「…ありがと」
「飲める?」
「……」
ペットボトル渡したのはいいけど、受け取ってすぐにボトって床に落とす美穂。
あ、やっぱり手付き覚束ないや…
仰向けだからストローでも飲めなさそうやし。
・・・
ちっちゃいコップ移して傾けて飲ませる?
それとも…
いや、なんで私のほうがパニックになってんのかわからんけど、今はもうこれしか思い付かん。
「みほー、くひあへて」
「…?」
「やから、くちっ」
「……?」
「あーん」
「あーん」
「ん…」
あ、やった。
ごくごくいってる。
ちゃんと飲んでくれた。
なんかよくわからんけど凄い達成感。
実はこれ初キスなんやけど、そんな全然、これでいいやって思える。
「まだいる?」
「…んん」
あぁー、…激かわ!
なに”こくん”って…可愛すぎやろ!
恐竜と比べたらダメなのは分かっとるけど、贔屓目無しにしても間違いなくベスト3には入ってくる完成度。
あげるんは私のほうやのに、なんかもっとちょうだいって、ちょうだいってなる。
「あーん」
「あーん」
「んん…」
またごくごくいってる。
可愛い…
美穂、可愛すぎや…
介抱とは関係ないけど、ついでに頭をなでなでしてあげる。
こころなしかさっきより楽な表情に変わった気がする。
「なお…」
「私のことわかるようになった?」
「…うん」
「他になんか、ほしいもんとかある?」
「…さっきの」
さっきの、ってなに?
もしかして団扇のこと?
それならほら、いくらでも仰いであげる。
ぱたぱたがさっきよりも強くなってばたばたに変わる。
ばたばた
美穂の前髪が跳ね上がるくらい強めに仰いで、仰いで。
それでもっともっと私に甘えてほしいって、そんな気持ちがふつふつと沸いてくる。
「あれ、もしかしてこれやなかった?」
「……」
「みほ?」
「……」
言葉がない美穂に疑問を感じて顔を近づけてみると微かに聞こえてくる寝息の音。
すーすーって。
ああ、寝ちゃったのか。
そうやって赤い顔して見せる寝顔も十分可愛いけど、もうちょっとこの美穂とお話したかったというか、なんだかモヤっちゃった。
「おやすみ、美穂」
◇
そのまま寝ている美穂のそばで団扇を仰ぎ続けていたら、私もいつの間にかソファにもたれたまま寝てたみたい。
うあっ!
って美穂が急に跳ね起きて声をあげたものだから、私もびっくりして、同じようにうわって素っ頓狂な声上げて起きた。
美穂のほうを見るとハァハァいってて
「ごめん、菜緒。私酔っぱらちゃってて…」
「ああ、ええよ。お酒弱かったんやね?」
「自分でも弱いのは知ってたけど」
どうやら美穂は自分が弱いのはなんとなく知ってたらしい。
以前家族に勧められて一杯飲んでみたら顔真っ赤になっちゃって、あれ、私弱いから全然飲めないほうだわって悟った、美穂は言う。
それが分かってたんだけど、愛萌がすーっごく押し進めてくるからしょうがなく…
愛萌ああ見えても飲んだら人が変わったようになっちゃう人で。
お酒って恐い。
恐いね、いろいろと。
そんなことをぼそぼそ話してると急に美穂がハッとして
「そういえば、私が意識朦朧としているとき菜緒…」
「えっ、なに」
「キスしなかった!?」
「あ…」
……そういえばしたかも
あ、でもあれはキスじゃなくて口移しというやつだから。
緊急だったから仕方なく咄嗟にしたことであって、全然ノーカンというか。
どうやら、自分が朦朧としてたときに勝手に初めてを済まされたことを納得いってないご様子で。
いつもよりちょっと目が吊り上がってるのがなんだか…
もうとっくにいつもの美穂に戻ってくれたみたいで、なんか寂しいけど嬉しい。
いつまでも私に迫ってきて全く引く気配がない美穂に向かってなんて答えよう。
「みほ」
「なに…」
「恋はパワーだよ」
恋はパワーだね
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あおいさんからのリクエストで
「愛萌と好花に飲まされて酔っ払ったべみほをこさかなが介抱する」
というお題でした。
なかなか面白い題材であり細かいシーンまで指定いただいたこともあり
ヌロワンヌの妄想が大爆発してしまいました(^^ゞ
どっち目線で書こうか最後まで迷ったのですが、こさかな目線のほうが介抱シーンに綺麗にスポットを当てられる気がして、こうなっちゃいました。
日向坂は私自身投稿二度目でしたが、前あげたのもなおみほでしたね。
たまたまの偶然ですけど(笑)
リクエストありがとうございました。