夢をみた。

 

 

いつものように急にコミカルな世界に送り出される摩訶不思議なものとは違う。

 

 

私が傍観者で、未央奈が生まれてから成人するまでの生い立ちをただひたすら眺めているという一風変わったスタイルのものだった。

 

 

そこには当然、私はいなくて。

 

未央奈が知らない誰かと友達になって、別の誰かを好きになって。

 

 

妙にリアリティのある世界の片隅で一人の人間の生い立ちから人生の分岐点に至るまで、ただひたすらそれだけを眺めているだけの時間。

 

 

一晩だけのことなのにそれがなんだか実はそっちが本当の世界で、今いる場所が嘘みたいだなって。

 

朝起きたときにはひっそりとそんな感想を抱いてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

最近になってまた私は未央奈に似てきた、と自分自身感じるようになった。

 

毎日一緒にいると、合わせているつもりなんてなくても自然と恋人との価値観を共有するようになる、みたいな感じで。

 

 

未央奈は優柔不断とか野心的ではないせいか楽天家に見られがちだけど、ノンシャランな性格なだけで実は対人関係に受け身なことが多い。

 

 

思えば、私との交友関係も最初からそうだった気がする。

 

未央奈とは初めから仲良かったわけではなく、それこそ出会って数年経ったときくらいから急に登り調子になって、数多くいるメンバーの中でも屈指に本音を言い合える関係にまで高速で発展した。

 

それは見ず知らずの最初から未央奈の方からぐいぐいきてたと勘違いしてたけど実はそうではなくて。

 

 

同じクラスメートだったとしても別の方向を向いたままで相まみえることのない、人見知りで独りぼっちな人種。

 

それがぴったり私たち二人なのだから、こうして隣にいるのもかなり分母の大きい数字の先にある物語だと思えば、やっぱり奇跡だなってしみじみ思えてくる。

 

 

それでもこうして恋人同士として過ごすようになったおかげで、価値観も発言もいつだって独特で理解できないと思っていた未央奈の温度が私に浸透してくるようになって…

 

会えなくて寂しいくらいならひねくれものの私でも十分感じるんだけど、楽屋でも恋人として傍にいたいという未央奈の気持ちが最近になってようやく痛いほど分かるようになった。

 

 

仕事場だったらいくら楽屋の中だといっても、ポリシーだとかべたべたするのを人に見られるのが苦手なんだよ、とか否定する言い訳なんていくらでも思いつくけどその逆は無い。

 

 

結局、ぐずぐずのまま。

 

 

理由なんて全く述べられないのに、その状況になってみて初めて嫌だなって思ってしまった。

 

 

自分はもっとたいそうひねくれもののペシミストのつもりだった。

 

 

 

 

 

「みおなー」

 

 

「ん、日奈子はよ」

 

 

「おはよ、何してんの?」

 

 

「んー?動画見てる、けど」

 

 

「飛鳥と二人で?」

 

 

「うん」

 

 

「でも飛鳥、本読んでるっぽくない?」

 

 

 

突然私と未央奈のいる机の端っこまでやってきて、日奈子は開きっぱなしで置いてある私の愛文書を指さした。

 

 

別に今日はたまたま未央奈と一緒の席に座っただけで、毎日一緒というわけではない。

 

今日はたまたま。

 

 

それが日奈子にはたいそう珍しかったらしい。

 

 

別の意味にとられてしまったようだった。

 

 

「みおなさー、飛鳥はそういうの好きじゃないと思うよ」

 

 

「えー?そうかな?」

 

 

チラッと、未央奈は片目を寄せてこっちを伺ってくる。

 

そんなの聞く意味なんてないのに、という私の内心とは裏腹に日奈子は続ける。

 

 

「飛鳥の読書の邪魔しちゃ悪いよ」

 

 

「そうなの?」

 

 

「いや、別に」

 

 

「別にって言ってるじゃん」

 

 

「そりゃハッキリとは言えないでしょ、…あっちで純奈と面白い話しで盛り上がってるからいこ?」

 

 

「えー?今面白いところだったのに…」

 

 

「……」

 

 

 

日奈子に手を引かれて強引に席を立たされる未央奈。

 

 

その構図がなんだか、そりゃはっきりと口に出してわがままをいう私じゃないんだけど、少しだけ、…ちょっぴり嫌だなって思えた。

 

 

あんまり表情に出るタイプではないんだろうけど、たぶん見てわかるほどにはしかめっ面というやつをしていただろう。

 

 

二人の真ん中に置いて眺めていたスマホは、私の目の前でぽつんと独りでに動画のアニメーションを映している。

 

今この瞬間に見る必要性を失ってしまったその画面をシャットしてから私はお気に入りの本を手に取った。

 

 

 

しょうがないのだ。

 

 

私と未央奈は恋人同士というやつなのだけど、訳あってそれを公開できない立場にある。

 

 

「……」

 

 

両手でページを開いてみるとそこには私の大好きな活字がいっぱいに広がっている。

 

 

元々の齋藤飛鳥の形がそうだったのだから。

 

控室にいる間は誰とも話さず、寝ているか読書しているかのそんなイメージ。

 

べたべたしたりするのが苦手で、面白いことを漏らすわけじゃないし喉を鳴らして大笑いして楽しむタイプでもない。

 

 

言えば協調性が欠けているのだ。

 

 

学校でいえば、休み時間に皆が早足で教室を出ていくのを羨ましがることもせず隅っこで静かに読書をしているような人間。

 

 

それが皆の思い描く齋藤飛鳥だった。

 

 

だから、しょうがない。

 

 

 

「……」

 

 

例えば、私が今連れていかれる前の未央奈の手を引っ張って、「私の未央奈を連れて行かないで」とか、「私の傍にいてよ」とか。

 

本心にかまけてそんなことを口走ろうものなら皆にいらぬ違和感を与えてしまうだろう。

 

それどころか、秘密にしていたはずの私たち二人の関係性がバレてしまうことだってあり得る。

 

 

だから、しょうがないのだ。

 

 

「……」

 

 

本当はもっとそばにいたい、だとか。

 

実の実はいなくなっちゃうと凄く寂しくて胸がキュっと締め付けられるんだ、とか。

 

 

そんなのは私の中に新しく構築された価値観というだけであって、長年乃木坂で活動している齋藤飛鳥の本質とはかけ離れている。

 

 

 

だから

 

 

こればっかりはどうしようもないのだ。

 

 

前々から読んでみたかった念願のエッセイを手にしたというのに、かれこれ1か月くらい全くページが進んでいない。

 

 

少し離れたところから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 

2期生だけで集合したときにいつも楽屋で生まれるその光景を視界の片隅におさめながら、私の本を読む速度はみるみるうちに落ちていった。

 

 

もう我慢の限界だった。

 

 

読みかけの本を粗っぽくパタンと閉じて椅子を引いた。

 

 

視界全体が噴霧器で水蒸気を炊いたみたいにもやもやが立ち込めている。

 

そのもやもやを掻き分けた先にある手を雑に掴み取った。

 

 

 

「…えっ!?」

 

 

「みおな」

 

 

「飛鳥?どうしたの、急に」

 

 

「あっちいこ」

 

 

「え、えっと、…ごめん。なんか飛鳥が用があるみたいだから行くね?」

 

 

「う、うん...

 

 

「いってらっしゃい...

 

 

 

こんなのは普段の私じゃない。

 

私に別の誰かが乗り移った形で行動をとったのだ。

 

 

自分でもわけがわからない気持ちを整理するためには、そんな不条理で脳いっぱいに満たすことしかできないでいた。

 

 

控え室を出て廊下を早足で歩く。

 

 

「あすかってば、急にどうしたのっ!」

 

 

「……」

 

 

「なに、どうしたの?」

 

 

「寂しい」

 

 

「え?」

 

 

「未央奈がいなくなって寂しかった」

 

 

「あれぽっちの時間で?」

 

 

「うん」

 

 

似合いもしない真剣な表情を作って未央奈は腕を組んだ。

 

自分の中にある飛鳥ちゃんならこんなことは絶対しないだろうって、そんな顔。

 

 

でもそれが嫌じゃない。

 

そんな風に一風変わった私を見て驚かれるのも嫌じゃない。

 

 

ほら、見てよこれも全部あなたの飛鳥ちゃんそのものですよ、って今なら言えそう。

 

 

「みおなさぁ」

 

 

「うん?」

 

 

「私が楽屋でいちゃいちゃするの嫌って言ってたの、あれ本当に嫌がってるって思ってた?」

 

 

「まあ、飛鳥ならそう思ってもおかしくないかなって」

 

 

「全然、だめ」

 

 

「え?」

 

 

「全然、違うよ」

 

 

「…違うって」

 

 

「私だって不安になるときだってあるんだから、……あのまま日奈子に未央奈が連れていかれるんじゃないかって...

 

 

「いや、連れていかれたけど」

 

 

「そうじゃなくて、取られちゃうんじゃないかってこと」

 

 

 

へ、って未央奈は素っ頓狂な声をあげて私を凝視した。

 

 

「…!はあ!?」

 

 

「本当に」

 

 

「そんなことあり得るわけないじゃん」

 

 

それがあり得るような気がした。

 

というよりそんなことが本当はあるんじゃないかって、まだ私は夢の中にいる気分だったのかもしれない。

 

 

「だから安心させてよ、未央奈がそばにいて」

 

 

「あすか…」

 

 

「どこにも行かないって、今ここで約束してみせてよ」

 

 

実は怖い夢を見たから、それを払拭してほしいだなんてそんな子供っぽくてこっぱずかしいことは流石に言えないのだけど。

 

 

「あすか」

 

 

「なに?」

 

 

「可愛い」

 

 

「うるさい」

 

 

「ホントに可愛い」

 

 

「……」

 

 

 

未央奈好き、可愛い、もっと言って。

 

 

いたずらっぽく笑い合う内側でどんどん崩れてきている私がいる。

 

 

いつもみたいな二人の温度のまま、私たちは抱き合った。

 

 

「よしよし」

 

 

「…こら」

 

 

へらへらしながら頭の上に置かれた手を払い除けることもせず、思いっきり抱きしめられてやる。

 

 

「寂しい思いさせてごめんね」

 

 

「ほんとだよ」

 

 

未央奈の顔がこんなにも近くにあって、肌きれいだなって、そんないつも家でいるみたいな距離感のまんま落っこちていく。

 

 

「飛鳥だけだよ、こんなことするの」

 

 

「私だけ?」

 

 

当たり前、ってずいぶん近いところから甘い声が聞こえてくる。

 

 

そりゃあそうだ。

 

 

返事を返すように未央奈の目に語り掛けると、にやにや嬉しそうに笑っている顔が目に入る。

 

きっと私もおんなじ顔してんだろうなって気付いてしまって、やっぱり私は未央奈に似てきたんじゃないかってそう思えてくる。

 

 

 

 

「もうそろそろ戻らなきゃだね?」

 

 

「うん」

 

 

「飛鳥?」

 

 

「なに」

 

 

「手離さないの?」

 

 

「いいじゃん、このままで」

 

 

「いいの?」

 

 

「いい、このまま戻ろ?」

 

 

 

離れても繋がっていたくて、手をギュッと握ったまま離さない。

 

 

未央奈の手けっこう暖かいんだなって、いや、これは私のほうか?

 

 

もうどっちがどっちの温度から分からないから、いいや。

 

 

考えるのを放棄する。

 

 

 

 

 

握った手を緩めるどころかより一層強く握り返されて未央奈を見る。

 

 

目と目が合って、ああそうだ。

 

 

最初っから似たもの同士だったんだなって、そのとき初めて気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いたらめられない

 

 

 

 

 

 

 

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みくさんからいただいた、楽屋での二人と

 

きょうりゅうくんさんからいただいた、未央奈と仲の良い2期生に飛鳥が嫉妬する場面

 

というリクエストを合わせさせていただきました(-ω-)/

 

 

 

かなり待たせてしまったので、本当に申し訳ないです!

 

 

 

それと2期生メンバーを登場させる場面が楽屋しか思いつかなかったので

 

 

勝手ですが、同じ作品内で統一という形をとらせていただきました<(_ _)>

 

 

 

 

 

最近、アメブロでもあしゅみおなを描く方がちらほらと…

 

 

大変嬉しい次第でございます(*´ω`*)