>遅くなってごめん!

 

>よだっちょが伝えたいって言ってたこと、今からでも聞いてもいいかな?

 

 

 

 

「こんなもん、かな…?」

 

 

未央奈と駐車場で別れた後、真っすぐ家に帰ってすぐさまスマホを取り出してLINEを開いた。

 

 

買ってきた買い物袋はキッチンにテキトーに放り出したまま、ベッドに座り込んでスマホと睨めっこしている私がいる。

 

 

 

あれだけハッキリと拒否したんだ。

 

はいわかりました、とは簡単にはいかないだろう。

 

 

でももう聞かないわけには、引き下がるわけにはいかなくなった。

 

 

だって、気付いてしまったから。

 

 

愚かで、今までの自分はただ耳を閉ざしてしまっていただけだったことに。

 

 

 

よだっちょからどんな言葉が出てくるのかは全然わからないけど、それを知らずにはいられなくなってしまった。

 

 

「……」

 

 

 

気付いたら体全体が強張って両手で拳を作っていた。

 

 

「はぁ…」

 

 

肩の力を抜いてベッドに大の字で倒れ込む。

 

 

 

そんなすぐに返事が来るわけないか

 

 

 

考えてみれば当たり前だ。

 

 

よだっちょにも普段は大学があるし、バイトだってしているはず。

 

もしかすると、この前の友達と楽しく遊んでいる最中かもしれない。

 

 

私からの返事を待っているどころか、もう別の友達に相談してしまってあなたはお呼びじゃありません、なんてこともあり得る。

 

 

もう金輪際、私に連絡をとってこないことだって…

 

 

 

なんにせよ、急いで返事を待つ必要はどこにもない。

 

 

そう思っていると、ベッドに投げ出したスマホから乾いたバイブ音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、飛鳥こっち」

 

 

「…ごめん、」

 

 

「久しぶりに会ったっていうのに、開口一番がそれ?」

 

 

「本当にごめん、…連絡ずっと無視してた...

 

 

「……。 ホント言うと、私だってちょっと不信になるところだったんだけど、今ばかりはそれは言ってられないから...

 

 

「……」

 

 

「とりあえず、座りなよ」

 

 

「…ありがとう、真夏」

 

 

 

私に連絡を送ってきたのはよだっちょではなく、真夏のほうだった。

 

 

私が無視を続けてたせいでしばらく送られてきてなかったけど、久々にLINEでメッセージを送ってきてくれた。

 

 

 

私がまだ大学生だったころ、真夏と美波と私の3人でよく来ていた喫茶店。

 

 

返事を返すとそこに来るように、来たら話しをするってメッセージが返ってきた。

 

 

 

「それで、急に会おうって言ったのは…?」

 

 

向かいの席にいる真夏の顔を見上げると、少し怒っているのか私を見る目が少し尖っているように感じた。

 

 

 

「まあいいや、ずっと怒ってても始まらないしね」

 

 

「真夏...

 

 

真夏は一度顔を伏せると、すぐさま顔をあげた。

 

そのときの表情は私のよく知っているにこやかで優しい顔だった。

 

 

「元気だった、飛鳥?」

 

 

「…うん、まあね」

 

 

「なら良かった、…連絡とれないから死んでるのかと思ってたけど」

 

 

「ごめん」

 

 

「だから謝らないでって... 飛鳥なりの事情があってのことだと思うけど、ひとまずまたこうやって会えてよかった」

 

 

「私も...

 

 

 

変わらない真夏の様子に安心した。

 

 

なんだかんだ言っても、毎日いっしょに過ごしていた親友だから。

 

 

会うだけでなんとなく心が和らぐ。

 

 

 

「…それでね?今日呼んだ理由なんだけど...

 

 

「うん」

 

 

「飛鳥には…絶対、伝えておかなきゃって思ってさ、」

 

 

「うん?」

 

 

「与田ちゃんと最後いつ会った?」

 

 

 

真夏の顔が今まで見た中で一番真剣なものへと変わった。

 

いやそれよりも、なんでよだっちょの名前が出てくるのか、違和感が頭を募った。

 

 

 

「なんでよだっちょ?」

 

 

「いいから答えて」

 

 

「たぶん、1週間か10日くらい前だったと思うけど...

 

 

「それ以降は?」

 

 

「? 会ってないけど?」

 

 

「やっぱり、か...

 

 

 

頭を抱えて大きく息を吐く真夏。

 

 

質問の意図は分からないけど、なんか釈然としないというか、嫌な感じがした。

 

 

 

「あのね飛鳥、驚かないで聞いてほしいんだけど…」

 

 

 

妙な寒気が体全体を襲った。

 

 

次の真夏の言葉を聞くのがなんとなく嫌だった。

 

 

 

 

「与田ちゃんと連絡がつかなくなった」

 

 

「え?」

 

 

「たぶん飛鳥が最後に会った次の日辺りから...

 

 

「は?どういうこと?」

 

 

「そのままの意味。…大学にも姿を見せてない」

 

 

 

頭がパニックになる。

 

 

 

よだっちょがいなくなった?

 

 

私と会った翌日から?

 

 

なんで?

 

 

 

断片的な言葉だけが頭の中で行ったり来たりする。

 

 

頭の中が真っ白になるというのはこういうことを言うのだろう。

 

 

 

「っ!なんで??」

 

 

「分からないよ、私が聞きたいくらい…」

 

 

「何も情報ないってこと?」

 

 

 

無意識に机に乗り出すような格好になる。

 

真夏が頼んだアイスコーヒーがグラスの中で波を立てている。

 

 

 

「目撃情報ならある、の…だけど...

 

 

「あるの!?」

 

 

 

なんだあるんじゃん。

 

勿体ぶらずに教えてくれればよかったのに。

 

 

そう思う私の気持ちとは裏腹に、真夏の表情は固かった。

 

 

 

そのときの私は目の前にある答えを追い求めるだけの子供みたいな精神状態だった。

 

 

真夏は友達思いで優しい性格。

 

 

幼馴染で付き合いの長い私だからこそ、言いにくいというか言い出せないことなんだって。

 

 

そのときの私にはそこまでの判断ができないでいた。

 

 

 

 

「…、大学の友達の目撃情報だから、本当かどうかわからないだけど..

 

 

「うん」

 

 

「街中で与田ちゃんの姿を見たっていうんだけど、…それが妙なの」

 

 

「なにが?」

 

 

「見た子が、与田ちゃんは…」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「“吸血鬼”、だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。