元禄忠臣蔵
御浜御殿綱豊卿

 

 

片岡仁左衛門の至芸、美麗を確認したい。

が、テンションは些か抑え目に感じられた。

 

仁左サマにも”その時”が来ているのだろうか。

そんなこと。

まだまだ。

 

いや、それはそうだ。

 

私達は仁左サマも玉サマも永遠の存在と思っている。

いつまでも麗しい。

心のなかではそうだ。

 

でも、お二方とも”人”だ。

”その時”は必ず訪れる。

 

そのための次世代。

松本幸四郎が相手を務めることには意味がある。

 

 

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初めのうちはゆるりとした雰囲気で芝居が進む。

 

優雅だ。

貴人の遊び心。

潜む思惑など微塵も感じられない。

 

 

そこに食い込んでくるのは、全力全開の助右衛門(幸四郎)。

綱豊卿と助右衛門の問答が繰り広げられる。

飄々とした空気感を保ちながら。

 

しかし、少しずつ、互いの距離を詰めていく。

 

躱していたはずの互いの言葉が徐々に突き刺さっていく。

 

静かな雰囲気の中で放たれていく波動。

観ている方は身体がひっくり返る感覚に襲われる。

 

 

腹を探り合っていた二人が、互いの覚悟を示す羽目になる。

相手に詰め寄せていた”気”が、回り回って自分たちに返ってきたのだ。

 

 

ここに。

またあの感覚が蘇った。

 

 

舞台に潜む神聖なもの。

 

先月の勧進帳で感じた。

成田屋と音羽屋のそれに感じたもの。

 

 

仁左衛門は綱豊なのか。

助右衛門は幸四郎なのか。

一つの身体が二様に揺らいでいる。

 

 

その体感は舞台の神秘。

尊さが感じられる。

 

 

桜  桜  桜  桜  桜  桜  桜  桜  桜

   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星   流れ星

 

 

次の場面。

仁左衛門は石橋の装束に身を包む。

その橙色の輝きを滑るように、桜の花が僅かに散る。

 

 

美しい。

 

 

血気に逸る助右衛門を制して、静かに舞台に臨んでいく。

 

 

この世界で唯一信じられる姿、形、心。