スーパー歌舞伎
三代猿之助四十八撰の内
ヤマトタケル
中村隼人の回。
ヤマトタケルの没落が描かれる。
英雄が自信の傲慢によって滅びる。
彼はそもそも父帝の命で、戦争に遣わされていただけだ。
個人的な目的も、兄のような野望もない。
追放同然に派遣され、常に父の愛を求めた。
各地で知り得たのは旧態依然とした文化だった。
愛する弟橘姫の命もその旧態たる”神”に奪われてしまう。
制した土地に新たな知をもたらし、より多くの人々の目を外に向けようとした と。
それは、そうすることで自分を保とうとしたのかもしれない。
草薙の剣を、みやず姫に預けたのもそれが理由ではないか。
天津神の加護を宿した剣。
古き知の賜物。
弟橘姫を死に追いやった”神の力”と同一線ではないか。
旧態の力ではないか。
しかし、それは厳然と存在する力だった。
その力を持つ山神たちによって、その生命を縮めることとなった。
飛翔する隼人くんの儚く美しい姿。
観客はただ見守るだけだった。
私もただ見守るだけだった。
生ある時には地を駆け巡り、死後に空を駆けた。
英雄の美しい姿だった。